綺麗に晴れた秋晴れの下、すっかり色づいた木々たちを眺めながら
私、アリス・マーガトロイドは人里のはずれにある、とある場所へと向かっていた。
それは以前までは何もなかった場所で、最近ある人がお寺を構えたところなのだ。
そこは一見人里から離れているせいで寂しく見えてしまうが、向かう私の心は弾んでいる。
なぜならそこには、最近知り合った彼女が居るからだ。
まもなくして、並木道から開けた場所に出る。
そこには一目で建てたばかりだと分かるくらい新しい、お寺が建っていた。
それなのになんとなく落ち着いた雰囲気があるのは、やはりあの人のおかげなのだろう。
「さて…いつでも訪ねてきていいと言われてるけど……」
私は扉の前に立ち、少しの間緊張で立ち止まる。
以前に何度か招かれて来たことはあるのだけれど、自分から訪ねてくるのはこれが初めてだからだ。
しかもそれが……その、自分の想いを寄せている人の家となれば、入ることを躊躇してしまうのも当然だろう。
「かといって、このままここで立ち止まっているわけにもいかないわよね…」
深呼吸を一つ二つと繰り返し、心を落ち着ける。
そして覚悟を決め、扉を―――
「―――あら、アリスさんいらっしゃってたんですか?」
「えっ!?」
後ろから聞こえてきた声に驚き振り向くと、そこにいたのは今私の頭の中を占めていた人物―――白蓮さんだった。
「ごめんなさい、驚かせちゃったみたいね。今は庭の掃除をしていたものだから」
「い、いえ…私が気づかなかったのもいけないですし…」
本当は緊張しすぎて周りが見えなくなっていたんだけれど、そんなこと白蓮さんに言えるはずがない。
ましてやその緊張していた理由が、白蓮さんのことを考えていたからなんて…。
「アリスさんは本当に良い方ですね。さ、こんなところで立ち話もあれですから、中に入りましょう?」
「あっ、はい、失礼します…」
白蓮さんに招かれて、一緒に寺の中へと入る。
その中は外観と変わらず真新しいのだけれど、やはりどこか落ち着いた感じがする部屋だった。
「さて、いつもの場所でもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
白蓮さんの問いかけに頷き、その後ろについていく。
いつもの場所とは、お寺の庭が綺麗に見える縁側のことだ。
私がこのお寺に来たときには、ほとんどこの縁側で庭を眺めながら、白蓮さんと話をしている。
「座ってちょっと待っててね。今お茶を淹れてくるから」
「あれ? 他の方はいらっしゃらないんですか?」
普段なら寅丸さんやナズーリンが持ってきてくれるんだけど…。
「あぁ、今は丁度皆出かけちゃってて私しか居ないんですよ」
「へ…?」
このお寺には白蓮さんしか居なかったと言うことは、つまり今は私と白蓮さんの二人きりと言うことだ。
…………………………白蓮さんと二人きり!?
「どうしたのアリスさん? 顔が赤いですよ?」
「えっ!? だ、大丈夫ですっ! な、なんでもないですからっ!」
慌てて顔を隠しながら、誤魔化す。
今までここに遊びに来たことは何度もあったけど、こうして二人きりになるのはこれが初めてなのだ。
それを意識してしまうと、鼓動は早まり体温は熱くなるばかり。
い、いきなり二人きりだなんて……ま、まだ心の準備が…。
「う〜ん、そう? ならいいですけど…」
私の様子に首をかしげながらも、白蓮さんはお茶を入れに行ってくれた。
どうやらなんとか誤魔化せたようだ。
「と、とにかく今のうちに心を落ち着かせないと…」
縁側に腰を下ろすと、深呼吸を繰り返す。
突然の出来事に心臓は を鳴らしていて、身体の熱は平常時よりかなり高い。
これでは白蓮さんに勘付かれてしまうのも時間の問題だ。
早く落ち着きを取り戻さないと…。
「それにしても、他の人が留守だなんて…」
自分から訪ねてくるだけでも勇気が必要だったのに、その上二人きりになってしまうなんて予想外すぎる。
こんなことではまともに白蓮さんと話を出来るかすら怪しい。
特にあの綺麗で優しい笑顔を向けられたら、のぼせ上がってしまうんじゃないかと思う。
「とにかく、白蓮さんが戻ってくるまでなんとか気持ちを落ち着けて―――」
「―――私がどうかしたんですか?」
「きゃぁああっ!?」
後ろから突然声をかけられ振り向くと、笑顔の白蓮さんが立っていた。
手には湯のみが二つ乗ったお盆がある。
どうやら悩みすぎて時間の感覚がなくなっていたようだ。
「ごめんなさい、また驚かせちゃったみたいね。何回か話しかけたんだけれど、真剣に考え事をしているようだったから」
「い、いえ私のほうこそ気づかなくてすみません…」
またしても失敗してしまった。
白蓮さんの前では特にちゃんとしていたいのに、どうも彼女を前にすると緊張して上手くいかない。
これじゃあ、私のこと好きになんてなってくれるはずないよね……。
「どうしたのアリスさん? なんだか表情が暗いけれど…」
「えっ? あ、なんでもないですっ。」
その言葉に慌てて笑顔を作って不安をその下に隠す。
散々失敗しているのに、その上白蓮さんに心配までかけたくない。
それに、暗くなっていた理由を打ち明けられるはずもないし。
「そう? でも悩んでいることがあるなら、相談に乗りますよ?」
お盆を床に置くと、白蓮さんは私の隣に座る。
そして優しい笑顔を浮かべながら、私の顔を覗き込んできた。
「そ、その……大したことじゃないので…」
「ホントに? なんだかさっきのアリスさんの表情を見ていたら、とてもそうは見えなかったけど…」
なんとか誤魔化そうとはするけど、今度ばかりは厳しいみたいだ。
それに白蓮さん笑顔を向けられたら、嘘をつき続けることなんかできそうにないし。
でも、この悩みだけは白蓮さんに告げるわけにはいかない。
だって、白蓮さんが好きで悩んでいるなんて、本人に対して言えるほどの勇気が私にあるはずがないのだから。
「は、はい…ホントにそんな大したことじゃないので―――」
「―――わかったわ、アリスさんの悩みっ」
「えっ!?」
じっと私の顔を見つめていた白蓮さんが、急に閃いたように両手を胸の前で合わせる。
なにもヒントになるようなことは口にしていないし、まさかバレてしまうなんてことは……
「たぶん、恋の悩みじゃないかしら」
「えっ……!?」
勘付かれるようなことは一言も言っていないのにズバリと言い当てられ、私は言葉を失う。
嫌な予感はしていたけど、まさかホントにバレてしまうなんて…!
「ふふっ、その反応じゃ図星かしら?」
「うぅ…まさか、鎌をかけたんですか?」
「えぇ、確信はなかったからね。ただなんとなくそうなんじゃないかと思ったわ。アリスさんの態度とか表情を見てね」
そこまで分かりやすく顔に出ていたのだろうか?
そうだとしたら恥ずかしすぎる。
でも白蓮さんは霊夢と同じで鋭いところがあるから、ちょっとした表情の違いで見抜かれたのかもしれないけど。
「でもうらやましいわ。アリスさんのような可愛らしい女の子に想ってもらえるなんて」
「そ、そんなことないですよっ。わ、私なんて…」
多分社交辞令だろうとは思いつつも、胸が高鳴ってしまう。
可愛いと言ってもらえたのもだけれど、私に想われるのがうらやましいと言ってくれたことが、嬉しかったから。
「いいえ、アリスさんはとっても可愛いですよ。きっとあなたに想ってもらえるような人だもの、とても素敵な人なんでしょうね」
「はい…とっても素敵な人ですよ」
それは間違いがない。目の前に居るこの人はとても素敵な人だ。
困っている人が居ると放っておくことが出来ず、必ず手を差し伸べる人で、昔人間達に封印されたにもかかわらず、里の人が困っていれば手を貸してあげられる優しい人。
「よかったら、どんな人か話してくれないかしら?」
その言葉に少し躊躇したけれど、私は口を開く。
「その人はとっても綺麗な人で、笑顔はとっても優しくて…あったかくて。困っている人が居ると、自分のことをそっちのけで助けてくれる人なんです」
気づいたらスラスラと口を突いて出ていた言葉。
彼女に自分の想いを勘付かれるかもしれないという心配がなくなったわけではない。
けれど自分の中だけでは、もう抑えきれなくなっていた。
彼女を想う沢山の気持ちが。
まるでその想いが言葉となってあふれ出してくるみたいに、止め処なく。
「しかもその人は昔、人間達に封印されてしまっていたと言うのに、それさえも関係ないというように、人間にだって関係なく手助けしてあげられる凄い人…」
そんな彼女の姿に、私はきっと惹かれたのだ。
優しくもあり強くもある、純粋で美しい彼女の姿に。
「アリスさん…それって…」
白蓮さんが面食らった様子で驚いている。
それはそうだろう。これだけ言えばバレないほうがおかしいし。
なんて言われるのだろうと不安になりながら待っていると、フッと白蓮さんはいつもの柔らかな笑顔に戻る。
「じゃあ今度は私の番ね。私も実は、心惹かれている方が一人いるの」
「えっ……?」
その白蓮さんの言葉に耳を疑う。
さっきの私の言葉で、私の気持ちがバレていないと言うのも驚いたけど、それ以上に白蓮さんに想い人がいたことに、胸が痛くなる。
確かに私のことなんて好きになってくれるはず無いと思っていたけど、まさかすでに好きな人が他にいたなんて…。
「その子はね、とっても可愛らしくて優しい子なの」
その“子”ということは、年下と言うことなのだろうか?
可愛いさと優しさ……私はどちらも持ち合わせていないものだ。
白蓮さんがそんな子が好きなんだとしたら、私を好きになってくれないのも当然だろう…。
「最初に彼女に興味を持ったのは、私と同じく人間から魔法使いになった人だから。それなのに、私と違って人間の子達ととても仲良くしていたのが気になったの。時代の違いはあるし、その人間の子達が強い力を持っていたというのもある。それでも違う種族であるはずなのに、あそこまで仲良く出来るのかってね」
人間から魔法使いになった上に、人間と仲のいい魔法使いなんて居ただろうか?
私の知る限りではそんな人はいなかったはずだけれど…。
もしかして、私の知らない人なんだろうか?
「でもその子と話しているうちにわかったの。そんなふうに種族の差を越えて仲良くできるのは、彼女が誰にでも優しくできて、人間だろうと妖怪だろうと分け隔てなく接することが出来る子だからだって…。」
白蓮さんが言うとおり、その人はとっても素敵な人なのだろう。
私にはそんなふうに誰にでも優しくしたりなんてことは出来ない。
……とてもじゃないけど、私なんかじゃ敵いそうになかった…。
「そう気づいたときには、すでに彼女のことが好きになってたんです。うすうす分かってはいたんだけど、最初はその子が人間と仲良くできる理由を知ろうとしていたはずが、途中からは彼女自身のことが知りたくて話しかけていたみたい」
そう話す白蓮さんの顔はとっても楽しそうで、幸せそうだった。
とてもその心の中に、私が入り込む隙間なんて見当たらないくらいに。
「そんな素敵な女の子の名前はね―――」
本当は耳を塞いでしまいたい。
だけどそんなことしたら白蓮さんが困るだろうし、そんなことをすれば今度こそ私の想いがバレてしまうだろう。
白蓮さんに想い人が居るとわかった今、それが悟られてしまうのは避けなければ。
………だけど、なんだか泣いちゃいそう…。
ここで時が止まってしまえばいいと願うが、白蓮さんの口から無常にも、その好きな人の名前が発せられる。
「―――アリス・マーガトロイドっていうの」
「……へぇ、素敵な名前ですね……………………………って……ふぇ?」
アリス……マーガトロイド?
それって、その…私の名前だから……つまり、えっと白蓮さんの好きな人って―――……………私のことっ!!?
「えっ!? えぇぇぇええええええっ!!?」
「どうしたのアリスさん? そんなビックリしちゃって」
「ど、どどど…どうしたのって、びゃ、白蓮さんっ!?」
あまりの驚きに頭がついていけていない。
絶対違うと思っていたのに。もう駄目だとあきらめていたのに。
まさか白蓮さんが私のこと好きで居てくれたなんて……。
「ねぇアリスさん、あなたの好きな人の名前も教えてくれないかしら?」
「えぇっ!? そ、それはあのっ…え、えっと……」
にこにこしながら聞いてくる白蓮さんの言葉に、私はしどろもどろになってしまう。
というか、あの白蓮さんの目は絶対分かってる目だ。
そ、それなのにわざわざ私に言わせるなんて……い、いじわるっ……!
「あら? 私は言ったのにアリスさんは教えてくれないのかしら?」
「あうっ……そ、それは………うぅ〜〜〜っ!」
なにか言い訳がないかと考えるけど思いつかない。
完全に主導権を握られてしまっていて、反論してもすぐ切り替えされそうだし…。
こ、こうなったらもう自棄で―――……本当のことを言うしかない…!
「わ、私が好きな人はっ! す、好きな人はっ………」
なんとかその先を言おうとするけれど、言葉にならない。
顔はビックリするくらい熱くなり、鼓動はありえないほどの速度で高鳴っている。
だけど言わなくちゃ先に進めない。
この場に来るまで、きっと白蓮さんには好きになってはもらえないとあきらめていたのだ。
それに比べたら、こんなことどうってことないはずだ。
そう心に決めると、深呼吸を一つして覚悟を決める。
あまりの緊張でどうにかなりそうになりながら、私は口を開いた。
「わ、わわっ私は、びゃ…白蓮さんが………白蓮さんが、好きですっ!」
い、言えた……!
あまりの緊張と上がり続ける熱に意識を手放しそうになりながらも、なんとか言い切ることが出来た。
「ふふっ、よく出来ました。これで私達両想いね」
そう言って白蓮さんは私の頭をなでてくれる。
嬉しいけれどちょっと恥ずかしいくて、つい俯いてしまう。
でもこれで、私と白蓮さんは両想いになったんだ…。
昨日までは絶対に無理だと思っていたのに、まるで夢みたい。
「じゃあアリスさんが頑張ってくれたから、私もちゃんと好きだって印をみせるわね」
その言葉が気になって、私は顔を上げる。
私を好きな印ってなんだろう?
「白蓮さん、その印っていったい―――ッ!!?」
その瞬間、思考が完全に停止する。
顔を上げたと思ったら、白蓮さんの顔が間近にあって、次の瞬間にはその距離が0になっていた。
距離が0というのはそのままの意味で、私と白蓮さんの顔が密着しているのだ。
その重なっている場所と言うのが、私と白蓮さんの唇で。
つまり私は……―――白蓮さんにキスされたッッ!?
「ふぇぇえええっっっ!!?」
あまりの驚きに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
動悸が早いなんてものじゃなく、顔だけじゃなくて全身が熱い。
なにもかもが、完全に許容量を越えている気がする。
「大好きよ。アリスさん」
そして白蓮さんの止めの一言。
なんだかもう…………無理。
「びゃ、白蓮さん……はぅ」
そうして私は、今度こそ意識を手放した。
その日は本当に心臓が休まる暇がない一日だった。
最後はあまりの恥ずかしさに気絶するなんて、お約束なことをしてしまったけど。
でもその代わり、私は白蓮さんと両想いになることが出来たのだ。
それを思えば、恥ずかしくても頑張って気持ちを伝えれて良かったと思う。
ただ、最後に倒れちゃったのはちょっと失敗。
だから今度は、自分からももっと想いを伝えられるように頑張らなきゃね―――
<あとがき>
初書き白アリ(白蓮さん×アリス)です。
前回の仙台コミケでお隣になった尾巻ニゲルさんの出されていたコピー本を見て、
あれ?白アリもあり…というか結構好きかもと思い書いてみました。
白蓮さんとかこんな感じでいいんですかね…?
まだ白蓮さん書くの2回目なので、完全にキャラを把握できてません;;
通常時の会話は良いんですけれど、カプで書く時がちょっと不安です。
アリスもマリアリで書くときとキャラがだいぶ違うのですが、
そこは突っ込まないでください^^;;
ツンデレアリスも可愛いですけど、こういう素直なアリスも
結構いいんじゃないかと思います。
書いてみてやっぱり白アリも好きになれそうなので、またそのうち書こうかな…^^
|