きっといつかは…

 窓の外を眺めれば、深々と雪が降り続く。
 季節はすっかり冬になり、朝もすっかり冷え込むようになってきた。
 この季節になると暖房器具が必須なってきて、自然と家の外へと出るのも億劫になってくる。
 今日も私は家の中にこもっていた。
 といっても冬にかかわらずあんまり外出することはないから、季節にかかわらず家の中にいるけど。
 でも今日は出るのが億劫とか、そんな理由で家の中にこもっているわけじゃない。
 その理由とは―――
「アリスさんの焼いたクッキーは本当に美味しいわね」
 ―――白蓮さんが、家に遊びに来ているからだ。
「そ、そうですか? あ、ありがとうございます…」
 前にも褒めてもらったことがあるけど、褒められるたびに頬が赤くなってしまう。
 今日はなにか約束していたわけじゃないんだけど、白蓮さんが突然家に訪ねてきたのだ。
 前にもこんなことがあったのだけど、そのたびに慌ててしまう。
 誰かが突然たずねてくるとビックリするのもあるけど、白蓮さんに突然来られると特に焦ってしまったりする。
 だって、白蓮さんは私の―――想いを寄せる人で、恋人だから。
「料理もお掃除も上手いし、アリスさんはいいお嫁さんになれそうね」
「えっ!? あ……そ、そのっ、そ…そんなこと」
 とっても思わせぶりなことを言われて、私の顔はますます赤くなってしまう。
 私はちょっと恥ずかしがりなところもあるけど、そうじゃなくても好きな人にこんなことを言われたら、赤くなるなという方が無理だと思う。
「ホントよ? アリスさんをお嫁さんにもらえる人は凄く幸せね」
「そ、そんなっ…そ、そもそも、わ…私をお嫁さんに貰ってくれる人なんて…」
 貰ってくれる人なんていませんよ、と言いたかったのだけど、恥ずかしさのあまり口が上手く動かない。
 そんな私に白蓮さんはニコッと笑いかけると、

「でもね、もしアリスさんがお嫁さんになるときその隣に居るのが私なら、とっても嬉しいわ」

 なんてとんでもなく恥ずかしいことを言ってのけた。
「えっ…えぇぇっ!? びゃ、白蓮さんっ!? それって……!?」
 その白蓮さんの言葉に身体全体がカァーっと熱くなる。
 ドキドキしすぎて心臓が張り裂けてしまいそう。
 そ、それに…それってまるでプ…ププ、プロポーズみたい…。

「ふふっ、そのままの意味ですよ? 私はアリスさんのこと、いつもそういう気持ちで見てますから…」

 顔を赤くしながら、でもはっきりと白蓮さんは想いを伝えてくれた。
 その言葉があまりに嬉しくて、恥ずかしくて…白蓮さんを直視できずに下を向いてしまう。
 そ…それってつまり、そういうこと……なんだよね…?
 好きな人に、世界で一番大好きな人にそんな言葉を言ってもらえるなんて、私はなんて幸せ者なんだろう。
 まるで、今自分が世界で一番幸せな女の子になれたみたい…。
 で、でも…こんなとき、なんて言葉を返せばいいのかしら…?
 当然だけど、今までこんな言葉をかけてもらったことなんて皆無だから、どんな風に返事をすればいいのか分からない。
 それに、私と白蓮さんが付き合い始めてからまだ3ヶ月ぐらいだし、そういう返事ってもうしちゃっていいものなの…?
 私だって、白蓮さんと恋人同士になれる前から、そうなったらいいなっていう気持ちはずっと胸の中にあった。
 だけどいざ現実となってしまうと、どうしたらいいのか分からなくなる。
「いいんですよアリスさん。すぐに答えが欲しいなんていいませんから。ただ今は、私の気持ちを真剣に聞いていただけただけで嬉しいですから」
 私が困ってしまっていると、白蓮さんはそう言って優しく微笑んでくれた。
 本当はすぐにでも答えるべきなのかもしれないけれど、今は白蓮さんの優しさに甘えておくことしか出来そうにない。
「あ、ありがとうございます。その…きっといつか、その言葉にお答えできる日が来ると思うので、そ…それまで、待っていていただけますか…?」
 今の私では白蓮さんの気持ちにこたえることは出来ないけれど、いつの日かきっと言葉に出して伝えることが出来ると思う。…ううん、必ず答えられるようにしなきゃ。
 そのためにも今は、その誓いを言葉として白蓮さんにも聞いて欲しい。
 必ず私からも、白蓮さんの気持ちにこたえるという証として。
「アリスさん……。ええ、楽しみに待ってますね」
 私の気持ちが通じたのか、白蓮さんも嬉しそうに頷いてくれる。
 その頬はほんのりと赤くなっていて、さすがの白蓮さんも照れてしまっているんだとわかった。
 それからなんだか気恥ずかしくて、お互いに顔を見れずに俯いてしまう。
 そうして会話が途切れてしまい、二人の間に静寂が流れる。
 そんな沈黙を破ってくれたのは、やっぱり白蓮さんだった。
「そ、そういえばアリスさん、アリスさんが作った人形…えっと、上海ちゃん…だったかしら? 見せてもらえない?」
「上海をですか?」
 突然のお願いにちょっと意表を突かれてしまうけど、そういえば白蓮さんは前から上海に興味を持っていたのを覚えている。
 まだきちんと見せてあげてはなかったし、今は丁度いい機会だと思う。
「いいですよ、ちょっと待っててくださいね…。上海〜っ」
 私が一言声をかけると、部屋の奥から上海がぴゅーと飛んできて、私の隣までやってくる。
「へぇ〜、初めて近くで見るけど、よく出来てるわね〜…」
「はい、上海は特に思い入れの強い子なので…」
 他の事に自信の持てない私も、人形作りに関してだけはそう簡単に負けない自信がある。
 だから上海のことをそんなふうに褒めてもらえるのはとっても嬉しい。
「抱っこさせてもらってもいいかしら?」
「あっはい、いいですよ」
 上海を一度自分で抱っこした後に、白蓮さんへと手渡す。
 白蓮さんは嬉しそうに上海を受け取ると、そのまま抱っこしてくれた。
「ふふっ、ホントに可愛いわね。まるでアリスさんの子供みたいだわ」
「そ、そんな…。でも、確かにそうかもしれません。親になったことないからまだはっきりとは分からないですけど、きっと子供が出来たらこんなふうに大事に思うんだろうなって…」
 私にとって上海はただの人形じゃない、特別な想いが込められている。
 だからこそとっても大事に思うし、母親が子供に抱く愛情と言うのもこんな感じなんじゃないかと思う。

「上海も白蓮さんに抱っこされてて、すごく喜んでるみたいです」
 直接言葉を交わさなくても、上海がどう感じているかは大体分かる。
 それに今は誰が見ても分かるくらい、嬉しそうにニコニコ笑っているもの。
 そんな上海の様子を見ているとこっちまで嬉しくなってきて、上海の頭をなでなでする。



「ふふっ、ホントに上海はいい子なのね」
 上海のことを気に入ってくれたのか、白蓮さんも愛おしそうな瞳で見つめてくれている。
 こうして見ると、白蓮さんは本当に母性にあふれた人だということが感じられた。
 どんなものでも優しく包み込んでしまえるような、温かく柔らかみを帯びた、まるで春の木漏れ日のような人。
 そんなところも、私が白蓮さんに惹かれた理由の一つだと思う。
 上海もそのことが分かっているから、こんなにも素直に抱っこされているんだろう。
 上海は私に似て、ちょっと人見知りなところもあるし。
 そう考えると、ホントに上海が自分の娘のように思えてくる。

 …ところでこの状況、なにかに似てないかしら?
 上海を再び子供みたいと意識したところで、ふと気がつく。
 上海を抱っこしている白蓮さん、その上海の頭をなでている私。
 この様子ってなんだか―――夫婦とその子供みたい。

 って、夫婦っ!?

 その単語を意識した瞬間、さっきまで落ち着いていた体温が一気に上昇を始め、鼓動は凄い速度で高鳴りだす。
 さっき白蓮さんにプロポーズ染みたことを言われたせいで、余計に意識してしまって動揺を押さえ込むどころか、逆にどんどん酷くなっていく。
「どうしたのアリスさん、顔が赤いわよ?」
「だ、大丈夫ですっ。な、なんでもないですからっ」
 白蓮さんに顔の変化を指摘され、慌てて顔を逸らして誤魔化す。
 私の不可解な行動に首を傾げていた白蓮さんだけど、すぐに上海のほうに視線を戻してくれた。
 よかった〜…。今考えてたことを勘付かれちゃったりしたら恥ずかしすぎるもの…。
「ところでアリスさん」
「は、はいっ!」
 胸をなでおろしていたところで名前を呼ばれ、思わずびくっとしてしまう。
 白蓮さんはそんな私の反応には気づかず、ニコニコしながら予想外なことを口にする。

「なんだかこうしてると、夫婦で子供をあやしているみたいに見えるわね」

「えっ……えぇっ!? その…えっと、あのっ…」
 今自分が考えていたこととまったく同じ言葉が白蓮さんの口から出てきて、しどろもどろになる。
 ま、まさか白蓮さんに私の考えてたことバレちゃったっ!?
「どうしたのそんなに驚いて…? …もしかして、やっぱりこんなこと言うのは変だったかしら…」
「い、いえっ! そう言う意味じゃないんですっ!」
 私の態度に白蓮さんが不安そうに聞いてくるので、私は慌てて否定する。
 だけど白蓮さんは私が気を遣っていると思っているのか、まだ表情が晴れない。
 確かにそんなふうに否定しただけじゃ気を使っていると思うだろう。
 だけど、本当のことを言うのはすごく恥ずかしいし…。
 で、でも恥ずかしさよりも白蓮さんに勘違いされるほうが、よっぽど嫌だし…。
 こ、これはもう…ちゃんと言うしかない…!
「た、ただその……わ、私も同じこと考えていたので、ビックリしちゃって…」
「あら、そうだったの?」
 白蓮さんの問いに頷く。
 うぅ、言っちゃったよ…。これだけは恥ずかしいから黙ってようと思ったのに…。
 これで今日は、白蓮さんの顔はまともに見れそうにない。
 だけど―――

「ふふっ、私達仲良しね」

 ―――嬉しそうに笑っている白蓮さんが居るから、これでよかったのだと思う。

 今の私にはこうして、なんとか白蓮さんについていくことしか出来ないけれど、いつかはその気持ちに応えられるようになりたい。
 それにはきっと沢山の勇気が必要だけど、足りない分は白蓮さんがくれるあったかい気持ちと白蓮さんのことを考えるとあふれてくる、優しい想いで埋められると思う。

 そして―――今日思い描いた光景が、いつの日か現実に出来ればいいな。


<あとがき>
 ちょいと甘めな白アリですね。
 最初から早くもいい雰囲気ですが、イチャイチャさせたかったんですスミマセン;;
 ニゲルさんがust配信なさっていたのでお邪魔したのですが、
 そのときに描いていらっしゃった白アリがとっても素晴らしくて
 駄目元で「この白アリ絵を元に小説書かせてください!」とお願いをしてみたら
 快くOKしていただきましたので、こうして書かせていただきました^^
 しかもその絵を挿絵に使っていいと言っていただきましたので、
 これは使わない手はないと遠慮せずに載せちゃいましたw
 サイトの小説で初の挿絵で、ちょっと浮かれちゃってます^^
 やっふ〜いっ!ヽ(≧∀≦)/
 …失礼しました;;

 でもせっかくOKしていただけたのに、こんな低クオリティですみません…orz
 これからもっと精進しなきゃな〜…。
 と、とにかくニゲルさん、本当にありがとうございます!
 ニゲルさんの描かれるイラストはどれも素敵で、特に白アリは見ていると
 幸せな気持ちになってしまいます><
 また配信とかのときには遊びに行きますので、そのときはよろしくお願いします^^






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