白い雲と青空が広がる空に、ゆっくりと煙が立ち上っていく。
私の足元ではパチパチとモノがはじける音が聞こえ、そこには赤く揺らめく炎が燃えさかっていた。
燃えさかるといってもそこまで大きな火ではなく、その火の大きさは私の身長の三分の一ほどしかない。
そこで燃えているのは落ち葉や枯れ木がほとんどで、つまりこれは焚き火と言うやつなのだ。
本来火と言うのは広がるととても危険なものだけど、こうして穏やかに燃えるのを見る分には、なんだか心が穏やかになってくる気分になる。
「本当に今日はありがとうアリスさん。皆他に用事がある日だったから、とっても助かったわ」
「いえ、白蓮さんのお役に立ててよかったです」
今日は白蓮さんの家に遊びに来ていたんだけど、訪ねてきたときに白蓮さんが庭の掃除に苦労していたのでさっきまで手伝っていたのだ。
なんでも今日は皆他の用事で出かけていたので、一人で掃除をしていたらしい。
白蓮さんには凄く感謝されたけど、お庭の掃き掃除ぐらいならお安い御用だし白蓮さんのお手伝いならばなおさらだ。
ちなみに今私の目の前で燃えている焚き火は、そのときに集めた落ち葉や枯れ木を燃やしているものだったりする。
「さて、せっかく焚き火をしていることだし、アリスさんへのお礼のためにもこれを焼いてみましょう」
「それは……サツマイモ…ですか?」
言いながら白蓮さんが取り出したのは、二本の大きめのサツマイモだった。
焼くということは、この焚き火に入れて落ち葉とかと一緒に燃やすと言うことだろうか?
「えぇ、アリスさんはやったことないかしら? 焚き火に焼き芋と言ったら、結構メジャーな組み合わせだと思うけど…」
「焚き火に焼き芋……確かに聞いたことはあります。確か焚き火の中にサツマイモを入れて焼くと、それだけで美味しくなるんですよね?」
私はやったことはないけれど、以前に霊夢のうちに行ったときその方法で食べさせてもらったことがあるから知っていた。
あんな風に焼くだけで美味しくなることに、最初の一口目はビックリしたのを覚えている。
「そうですよ。そして…―――これを巻くことでさらに美味しく出来上がるの」
と言って白蓮さんが取り出したのは、小さな魔法陣が描かれた白い紙だった。
「なんですかそれ? …ぱっと見た感じ、火関係の魔法陣みたいですけど…」
「さすがアリスさんね。この紙には簡単な耐熱の魔法がかけてあって、これを巻くことによって焦げることもなく丁度いい感じに焼きあがるのよ」
なるほど、前に霊夢のうちでやったときは美味しかったけど、外の皮が焦げてしまっていた。
こんな風に焚き火で焼くと、火力調整が難しくて焦がしてしまったりするけれど、こうやってサツマイモに伝わる熱のほうを調整してやるほうが楽かもしれない。
「じゃあこれは焚き火の中に入れて置いて……焼きあがるまでしばらくかかるし、それまでおしゃべりでもして待ちましょうか?」
白蓮さんの言葉に頷く。
でも白蓮さんとお話って、一体何をすればいいのかな?
そんな風に私が悩んでいると、白蓮さんが先に口を開く。
「ところで、アリスさんは好きな人っているんですか?」
「えっ!? なっ、何で急にそんな話になってるんですかっ!?」
あまりに突拍子もなく恋の話題に移ったので、動揺してしまう。
しかもその話をふられた相手が白蓮さんなんて…!
「ちょっと気になったんですよ。アリスさんほど可愛らしい方に想われる幸せ者はいるのかなと」
「そ、そんな…私可愛くなんてないですよ…」
「そんなことないと思うわよ? もし皆があなたの可愛さに気づいていないと言うなら、きっとみんなの目は節穴なのね」
言って、悪戯っぽく笑う白蓮さん。
多分お世辞だということはわかっているけれど、どうしてもそんなことを言われると心のどこかで期待してしまう。
自分で自分のことを可愛いなんてまったく思っていないのだけれど、白蓮さんが少しでも私のことをそう思ってくれているんだったら、もしかしたら…もしかするんじゃないかって……。
「どうしたのアリスさん? 顔が赤いですけれど、まさか風邪?」
「い、いえっ! だ、大丈夫ですからっ!」
顔の赤さを指摘されて、慌てて誤魔化す。
この気持ちを、白蓮さんに悟られるわけにはいかない。
だって、私なんかではとてもじゃないけど、白蓮さんと釣り合わないし…。
「さてアリスさん、さっきの答え聞かせてもらえないかしら?」
「さ、さっきの答えって…な、なんのことですか?」
「ふふっ、誤魔化そうとしてもだめよ? アリスさんは好きな人が居るかって質問の答えですよ」
なんとか忘れたふりをして誤魔化そうとするけれど、やっぱり許してもらえなかった。
でも白蓮さんの前でそんな質問を答えるなんて…。
「そ、その……。す、好きな人は……い………いません…」
本当のことを言おうか迷ったけど、やっぱり言うことなんてできなかった。
白蓮さんに嘘をつきたくはなかったけど、本当のことを言って、私の気持ちが悟られてしまうんじゃないかって怖かったから…。
「…あら、そうだったんですか? てっきりすでにいるものだと思っていたんですけど…」
白蓮さんは私の答えが意外だったのか、ちょっとビックリしたような顔をしている。
なんで私に好きな人が居ると思ったのか知りたいけれど、これ以上突っ込んでぼろが出るのが怖くて聞けなかった。
すると白蓮さんは、いつもの微笑を絶やさないまま、私のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。
えっ? ど、どうしたのかしら白蓮さん…?
「…じゃあ、まだいないんだったら―――」
私が困惑していると、白蓮さんは私の顔の目の前まで顔を寄せてきて、じっと私の目を見つめてくる。
そして右手人差し指を混乱している私の唇にゆっくりと置くと、
「―――私がもらっちゃっても、かまわないかしら?」
なんてとんでもないことを言ってきた。
「えっ…? えぇぇええええっ!?」
あまりの驚きに素っ頓狂な叫び声を上げ、後ろに後ずさってしまう。
びゃ、びゃびゃっ、白蓮さんが…白蓮さんが……私をっ…!?
とんでもない言葉をかけられたせいで、私の体温はさっきのときなんて比じゃないくらいに急上昇する。
まるで心臓は、激しい運動をした後みたいに高鳴り、頭は全然冷静さを取り戻せない。
「ふふっ、冗談ですよ。ごめんなさい、アリスさんがあまりに可愛いからついからかってしまったわ」
「えっ…? ……そ、そうですよね…。び、びっくりしました…」
その白蓮さんの言葉に安心した反面、残念がっている私が居た。
絶対にないとは分かっていながらも、心のどこかで期待していたのかもしれない。
だって、白蓮さんは私の―――……大好きな、人だから…。
「さぁ、そろそろ出来上がった頃だと思うし、焼き芋食べましょうか。きっと美味しいわよ?」
「あっ、はい。きっと白蓮さんが焼いたんですから美味しいですよ」
そう言って、ニコリと笑った。
自分では見えないけれど、多分上手く笑えていたと思う。
きっと隠せていただろう。
だけど自分にまでは隠せていなかった。
この胸の痛みがその証。
絶対に無理だと分かっているのに。
まったく釣り合わないとあきらめたはずなのに。
どうしても消すことのできないこの想い。
あなたの笑顔を見ていると、
あなたの優しさに触れていると、
消えるどころかどんどん大きくなっていく。
あまりに大きくなりすぎて、張り裂けてしまいそうなくらい胸が痛い。
この心はあなたを知ってしまった、消すにはもはや遅すぎるくらい。
叶わないと知っていて、
無理なことだと分かっていて、
それでも願わずにはいられない。
想わずにはいられない。
届くことのない、この願いを。
伝わることのない、この気持ちを―――
―――白蓮さんと両想いになれますように。
それから白蓮さんと一緒に焼き芋を食べた。
味なんて全然分からなかったけど、美味しいと笑いながら全部食べきった。
本当は甘いはずのその味が、なんだかとっても苦く感じられた―――
<あとがき>
白アリ週間二日目です。
ほのぼのにする予定だったのですが、なぜか後半ちょっとシリアス
になってしまった;;
季節的に分かるかもしれませんが、これは一日目の前の話になりますね。
白蓮さんへの恋心を持っているアリスだけど、自分では白蓮さんに
釣り合わないと告白すら諦めてしまっている…という感じです。
この話だけ読むと、なんだか白蓮さんが空気読めない人? みたいに
なってますが、実は……まぁその辺は、この後をお楽しみに^^
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