気づくかな?
 それは小さなきっかけだった。
 アイツにしてみれば、なんてことのない言葉だったのかもしれない。
 でも私には、その言葉が不思議と耳に残った。
 日常に埋もれてしまいそうな、何気ない言葉―――

 ―――アリスってさ、もっと可愛いカチューシャってつけないのか?



「う〜ん、やっぱりこんなの私には似合わないんじゃ…」
 腕組みをしながら、私―――アリス・マーガトロイドは頭を悩ませていた。
 今日は気持ちの良いような快晴なのだが、外に出ようという気も起きない。
 まぁそもそも、私の家は深い森の奥にあるため太陽の光が届かないので、
天気なんて関係ないんだけど。
「うぅ、やっぱりこんなの買ってくるんじゃなかった…」
 つい1時間前の自分の行動に後悔しながら、悩みの元凶を睨み付ける。
 そこにあるのは、カチューシャだった。
 それはいつも私がつけているものとは違い、カチューシャの上に大きめの
リボンが付いているものだ。
 さっき香霖堂に行って買ってきたものなのだが、はたして着けてみるべきか
どうか悩んでいるわけだ。
 買ってきたことを後悔しているのは、なにもその場の勢いで衝動買いしてきて、
今になってそれを悔やんでいるわけではない。
 そもそも香霖堂にはちゃんとした用がないと行かないし、今日はこれを買う
目的で行ったのだから。
 ではなぜ後悔しているのかというと、これを買いに行った動機に理由がある
のだ。
「魔理沙が、あんなこと…言うから」
 前に魔理沙が家に遊びに来たとき、何気なく言われた言葉が気になり、
こうして買ってきてしまったのだ。
 その言葉とは―――
『アリスってさ、今つけてるカチューシャって少し地味だけど、もっと可愛い
カチューシャってつけないのか? きっと似合うと思うぜ?』
 ―――というものだ。
 …こんな言葉が気になってしまう私も私だけど、アイツも思わせぶりなことを
言いすぎである。
「そんなこといわれると、もしかしたらつけて欲しいのかもって、思っちゃう
じゃない…」
 アイツはいつもそうだ。
 いつもこっちが気になるような言葉を残してく。
「って、別に魔理沙がどう言おうが私には関係ないけどっ」
 そう、別にアイツの言葉が気になって買ってきたのではない。
 なんとなく、なんとな〜く、その言葉が耳に残っただけ…。
「う〜ん、でもせっかく買ってきたんだし…着けてみようかな?」
 きっかけはどうあろうと、このまま仕舞い込んでしまうのも勿体無いだろう。
「……よし、やっぱり着けよう」
 鏡の前に立ち、いつものカチューシャと今買ってきたものを付け替える。
 つけ終わって鏡を見つめると、思わずそこに映る自分を睨み付けてしまう。
 ……似合って、いるのだろうか?
 全然似合っていない…ということはないと思う。
 確かにいつもより可愛い感じのカチューシャだけど、180度違ったものではないし、
自分がつけるには見当違いなものということはないだろう。
 だけど、果たして似合っていると言えるかどうかは、自分にはわからない。
「……魔理沙が見たら、似合ってるって…言ってくれるのかしら?」
「ん? 私がどうしたんだアリス」
「きゃあああっ!!」
 突然後ろからした声に、思わず悲鳴を上げてしまう。
 慌てて振り返るとそこに立っていたのは、さっきまで頭の中を占めていた相手
―――魔理沙だった。
「ど、どうしたんだアリス? 急に悲鳴なんか上げて」
「いきなり後ろから声かけられたら、誰だってびっくりするわよっ! ノックぐらい
しなさいよねっ!」
「いや、何度かしたんだけど全然返事がなかったからさ。驚かせて悪かったぜ」
 どうやら周りの音が聞こえなくなるぐらいに、考え込んでしまっていたらしい。
「そ、そう、それなら仕方ないわね。紅茶でも入れるから、テーブルについて
待っててくれる?」
 私は照れ隠しのために、お茶の準備をしだす。
 まさか、自分が魔理沙の言葉にあそこまで考え込んでいたなんて、本人の前で
言えるわけがない。
 ……そういえば、魔理沙はカチューシャのこと気づくのかしら…?
「ん? どうしたんだアリス。なんか考え込んじゃって」
「な、なんでもないわよっ」
 また考え込んでしまいそうになる頭を、なんとか慌てて元に戻す。
 だいたい、魔理沙が気づくかどうかなんて関係ない。
 …確かに、魔理沙の言葉がきっかけで買ってきたカチューシャだけど、
別に魔理沙のために着けたんじゃないし。
 そ、そもそも魔理沙に気づいてもらったからって、別に嬉しくなんかないし。
「急に来たんだから、このぐらいで我慢しなさい」
 そう言って私は、昨日作ったクッキーと紅茶を差し出す。
 でも一応誰か来た時のためにと思って作っておいたものだから、そこまで味は
悪くないはずだ。
 まぁ、ここに遊びに来るのはほとんど魔理沙だから、ほとんど魔理沙用みたいな
ものだけど。
 ―――って、別に魔理沙のために焼いたわけじゃないわよっ!
「どうしたんだアリス、さっきから考え込んだと思ったらすぐに赤くなったりして」
「な、なんでもないったらっ! 別に魔理沙のことなんて考えてないわよ!」
「え? 別に私のこと考えてたのかなんて聞いてないぜ?」
「あっ!? と、とにかく魔理沙には関係ないのっ!」
「ふ〜ん、まあいいけどさ」
 またしても墓穴を掘ってしまい、さらに顔が熱くなるのを感じた。
 魔理沙と居ると、いつも自分のペースを乱されてばかりだ。
 そんなに嫌な気分ってわけではないけど…。
「それにしても、アリスは料理上手いよな。このクッキーもとっても美味しいぜ」
「そ、そうかしら。そのぐらい誰だって作れると思うけど」
「いや、私じゃこんな風には作れないぜ? 十分自慢できるレベルじゃないか」
「ほ、褒めたってこれ以上何も出ないわよ」
 そう、これがペースを乱される一番の理由。
 魔理沙は感情をストレートに伝えてくるから、どうしても恥ずかしくなってしまう。
 普通なら口に出さずしまいこんでしまう台詞も、気にせず口にしてくるのだから。
 まぁ、褒められて嫌な気はしないけど…。
 そうして魔理沙のペースで話しているうちに、いつの間にか時間が経っていた。
 魔理沙と話していると、なんとなく時間が経つのが早い気がする。
 べ、別に魔理沙と話しているのが楽しくて、時間が経つのを忘れているとかじゃ
ないけどっ。
「さて、それじゃあ私は帰るぜ。またなアリス」
「えぇ、箒から落っこちないように気をつけて帰りなさい」
「おいおい、私はそこまでドジじゃないぜ?」
 そんな冗談を言いながら、魔理沙を見送る。
 ……結局、魔理沙私のカチューシャのこと、気づかなかったな…。
 仕方ないかもしれない。魔理沙にしてみれば何気なくいった一言で、私がそれを
真に受けただけなのだ。
 魔理沙と話して居るうちに、そのことに対する不満はなくなっていた。
 ただ少しだけ、自分が魔理沙に気にされていないと言うことが、ほんの少しだけ…悲しい。
「あぁそうだアリス」
 帰ろうとしていた魔理沙が、何かを思い出したように振りかえる。
 なにか忘れ物でもしたのだろうか?
「私の言ったこと、覚えててくれたんだな。嬉しいぜ」
「え? なんのこと?」
 果たして魔理沙は何のことを言っているんだろうか?
 なにか前に魔理沙と約束でもしていて、知らないうちにその約束を守っていたとかかも
知れないけど、そんな覚えはない。
「カチューシャのことだよ。やっぱり可愛い感じのも似合うじゃないか。
とっても可愛いぜ」
「なっ!?」
 魔理沙の言葉に、顔が一気に赤くなる。
 完全に不意打ちだった。
 てっきり気づいていないんだとあきらめていたのに、このタイミングで
言われるなんて思ってもいなかった。
「じゃあな、たまにで良いからそういうのもつけてみてくれよ。
アリスは元が可愛いんだから、もう少し気を使わないと勿体無いぜ」
「な、なななっなに言ってんのよ魔理沙っ!? ちょっと待ちなさ―――」
「―――またな〜、クッキーも美味かったぜ〜っ」
 私が慌ててとめるのも聞かず、魔理沙はあっという間に見えなくなってしまった。
 このタイミングでそんなことを言うのは反則だ。
 いくらなんでも言い逃げなんて…。
 でも、もし話している途中に面と向かって言われたとしても、対処できる自信はないけど。
 だけど、気づいてくれたのはちょっと嬉しいかもしれない。
 だから―――
「……たまには、違ったのもつけてみようかな…?」
 ―――なんて思った。
 たぶん、魔理沙のために換えたんだと自分自信が認められるのは、随分先の話だろうけど。



<あとがき>
 実はこれがマリアリ初書きだったりします。
 今まで他のカプ小説の中では出てたりしたんですが、マリアリとして書くのは初めてですね。
 う〜ん、初書きなせいもありますが、そもそも女の子同士を書くことに慣れていないせいか、
 文が安定しない…orz
 まぁ今までノマカプしか書いてこなかったですし、今も東方以外では普通に男女カプしか書かないので、
 なかなか慣れないんですけどね〜…。
 お陰でいつもより、かなり糖分控えめな文しかかけず、不完全燃焼です…(-_-;)
 今度はもっと甘めかけるようにがんばろうっと。






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