腕が取れても痛くないアリスと泣いちゃう魔理沙

※アリスの腕が取れちゃってるので一応注意です!














「……ッ」
「な、なんであんたが泣くのよ」
 ふと隣に目を向けてぎょっとした。
 隣にいた魔理沙が涙を流していた。
「お前が泣かないからだアリス!!」
 腕が取れてしまった左肩を優しく掴み、涙のこぼれる瞳で見つめてくる。
「こんなの…痛いに決まってる」
「……」
 まさか魔理沙がこんなことで泣くとは思ってなかった。
 確かにこの子は感情豊かだし、普段からよく笑う子だとは思っていたけど…。
「痛くないわけではないけど、ある程度魔法で和らげられるから問題ないわ」
 だけど私にとって、腕の一本くらいそれほど騒ぐようなことじゃない。
 敵の攻撃から魔理沙を庇いきるために腕を犠牲にしなければならなかったのも、結局は私の実力不足によるものだから。
「そんなに簡単に言うなよ…。こんな…こんなのって……」
「どうしてそんなに騒ぐのよ。たかが腕一本じゃない」
 ちょっと厄介だった程度の相手に腕を取られたのは少々不満が残る結果だけれど、そんなに気にするようなことでもないだろう。
 人形作りの応用で、魔法で動く義手なんかでもつければいいし。
「たかがって…!? アリスの大事な腕がたかがなはずないだろ!? だいたいなんで私なんか守ったんだ…! アリス一人ならこんなことにならずにすんだのに…!」
「あなたに目の前で死なれると後味が悪いからよ。私が勝手に守ったんだから、魔理沙が気に病む必要はないわ」
 そう、あれは私が勝手にやったこと。
 というよりも、身体が自然と動いたといってもいい。
 魔理沙の言うとお、り私一人の身を守るだけなら無傷だったかもしれないけどそれは結果論にすぎないし、考える前に身体が動いたのだから恐らく何度やっても同じ結果になるだろう。
「だ、だったらなんでもするから言ってくれよアリス!! 」
 それでも必死に食い下がってくる魔理沙に少し呆れてしまう。
 私は構わないと言っているのに、どうしてわざわざ対価を払おうとするのかしら。
「なんでも……ねぇ? それじゃあ、あなたの命でももらおうかしら?」
「い、命…?」
 適当に脅かしておけば引き下がるだろうと思い、そんなことを口にする。
 いくら魔理沙だって、こんな怖がらせ方したらきっと逃げるに決まって―――
「…いいよ、この命アリスにやるよ。元々アリスに助けてもらわなければなくなってたものだ。それでその腕の分が補えるなら私は……」
「――――――」
 …驚いた。
 彼女に恐れがまったくないわけではない。
 私を見つめる瞳は死への恐怖で揺れていて、手も小刻みに揺れている。
 それなのに、どうして魔理沙はこんなに真っ直ぐな瞳で私を見ることが出来るのだろうか。
「……冗談よ。いくらなんでも腕一本の対価としては高すぎるわ」
 …本当に、可愛らしくて愚かな子。
 きっと彼女は、今私がその命を奪おうとしたとしても素直にそれを受け入れただろう。
 どうしてこの子がここまで私を信じ、全てを委ねてくれるのかはわからない。
 けれどその、愚直なまでの信頼はなんだか心地が良かった。
 こんな子だからきっと、腕を差し出したとしても守る価値があると思ったのかもしれない。
 あまりにも無知で、盲目的で、甘く、愚直で―――だけどそんなこの子が、たまらなく愛しい。
「そうね……ねえ魔理沙、あなたキスはしたことあるのかしら?」
「き、キスっ!? し、したことないけど…」
「ふぅん、そう…」
 話題を切り替えると、それが恥ずかしかったのか赤くなって俯く魔理沙。
 そっか…それならいいかもしれないわね。
「…魔理沙、こっち向いてくれるかしら」
「えっ? あ、あぁ…」
 疑いもせず顔をこちらに向けてきた魔理沙の顎にそっと手を添える。
 そして驚きで身体をビクッとさせる魔理沙に構わず顔を近づけて行き―――
 ―――そっと唇を重ねた。
「なっ!? なななっ!? なにするんだよいきなりっ!?」
「なにをするって、この腕の対価よ? 人生で初めてのキス―――ファーストキスってやつかしら。それでチャラにしてあげるわ」
 唇を押さえて慌てて飛びのく魔理沙にしれっと答える。
 一方魔理沙は耳まで真っ赤になっていて、本当にキスが初めてだったことが伺える。
「な、なんでこんなことしたんだよ…。腕の対価だってこんなことにしなくても…」
「なんでって、そんなのもわからないのかしら? キスする理由なんて普通一つしかないでしょ?」
「え……!? で、でもアリスそんな素振り一度もしなかったじゃないか…!?」
 目を丸くしてわたわたする魔理沙。
 確かに私は感情の表現は皆無に等しいし、起伏もほとんどないからわからなかったかもしれない。
「いくら私でも、気に入ってもない相手のために片腕を犠牲にしたりしないわよ」
「あ……そ、そうだよな…。で、でもその……それってつまり、アリスが私のことを…」
「そうね、有り体に言えば好きってことよ」
「っ!? あ、あぅぅ…」
 もはや顔から湯気でも出てくるんじゃないかと思ってしまうほど、真っ赤になっている魔理沙。
 私なんかに告白されたくらいでこんなにうろたえて…なんて可愛いのだろう。
 もし私がもっと感情表現豊かだったら、顔がにやけてしまっていたに違いない。
「さて、そろそろいくわよ。あんまり長居するような場所でもないわ」
「あっ!? ま、待ってくれアリスっ!」
 その反応に満足しその場を後にしようとするが呼び止められる。
「ん? どうしたのかしら?」
「そ、そのさ…。あ、アリスが言ってくれたからその…わ、私もちゃんと伝えたくて」
「ふぅん、なにを伝えたいのかしら?」
 魔理沙の言葉の先が見えない。
 私が言ったことからなにを伝えようというのかしら。
「わ、私も…私もアリスのことが好きなんだっ!」
「えっ………………」
 その言葉に面食らってしまう。
 普通に考えれば、私が好きといったんだからその返答としては魔理沙の言葉は至極正しい。
 だけどこの頭には、彼女が私のことを好きといってくれる可能性は微塵も浮かばなかった。
 こんな人形みたいな私を好きになる人がいるなんて、想像も出来なかった。
「…そう、私みたいなのが好きなんて、あなたも物好きね」
 本当に物好き。
 こんなのと一緒に居たってつまらないに決まってるのに。
 ……けれど、魔理沙の“好き”という言葉に、胸が少しだけ温かくなる感じがした。
「そ、それでさ……つまり私たちって、両想いってことだよな…?」
「まぁ、お互いに好きなんだから両想いってことでしょうね? だけどそれがどうしたの?」
「え、えっとだからさ…。その…」
 一体なにを言い淀んでいるんだろうか?
 おそらく今の言葉からすると、両想い同士だから出来ることをしたいのかもしれない。
 ということは、好き同士がすることといえば―――
「もう一度キスがしたいの? それともそれ以上のことがしたいのかしら?」
「そ、そそそっ! それ以上ってっ!?」
「あら、違うの? まぁ私はどっちでも構わないけど」
 いったん収まってきたかと思っていた魔理沙の赤面が、またぶり返す。
 それどころか今までで一番じゃないかと思うほどその顔は余すことなく赤く、倒れたりしないかと危惧するほどだ。
 しかし魔理沙、よく赤くなりすぎじゃないかしら。
 もしかしたら赤面症とかなのかもしれないわね…。
「そ、そういうことはまだ早いだろっ!? そ、そうじゃなくて私が言いたかったのは、お付き合いしてくださいというか…」
「お付き合い…? あぁ、恋人ってことね。でも、両想いなんだからすでに恋人じゃないのかしら?」
「い、いやっ…そ、そうかもしれないけどさ…。で、でもこう言う事はちゃんと口に出しておいたほうが…!」
 世俗に疎いせいでこういうことは良くわからないが、そういうものなのだろうか。
 それにしても魔理沙、結構その辺の形式とかに拘るほうなのかしらね?
「魔理沙がそうしたいならそれでいいわよ。私はそういうの気にしないし」
 それで満足できるなら、魔理沙の好きにすればいいと思う。
 私は特に、そういうものには関心がないから。
「さて、言いたいことが終わったなら帰るわよ」
「う、うん…そうだな」
 私の素っ気無い態度が寂しいのか、歯切れの悪い魔理沙。
「…恋人なら、ちゃんと義手が出来るまで家に泊まりこみで面倒みてもらおうかしら」
「あ…あぁ! それまでは私がアリスの手になるからなっ!」
 まったく、手間が掛かるんだから…。
 ため息をつく私の口元は、その考えとは正反対に自然と緩んでいた。
 なるほど、魔理沙の言うとおり“恋人”という言葉には予想外の力が宿っているらしい。
 片腕がなくて研究も滞るかもしれないのに、私はこれからの魔理沙がいる日々を楽しみにしていた。
 そもそも、自分が“楽しい”なんて感情を感じるのは何年ぶりなのだろうか。
 …こんな感情久しぶりだし、しばらくそれに流されてみるのも一興かもしれない。
 そのためにも、魔理沙にも色々と協力してもらうとしよう。
 恋人同士になったんだから、別に「それ以上のこと」をしても構わないわよね、魔理沙―――?







<あとがき>
 本田マリアさんがついぴくにあげていた漫画の続きを書いたものです。
 初めて書いたかもしれないアリマリっぽい小説です。
 しかし、なんであんなシリアスな展開から始まったのに、こんなほのぼのっぽくなったのか^^;
 そして書き終わってから気づいたんですが、腕取れてるのにあんなイチャついてるのは
 おかしい気がする…^q^
 書き終わってから気づいたんで直しようなかったんですすみません><
 まぁ、マリアリみるといちゃつかせたくなっちゃうので仕方ないね!←
 あと、素敵なマリアリ漫画の続きをこんな酷い小説にしてしまってすみませんと
 マリアちゃんには謝らなければ…ごめんなさい^q^






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