たまには雨もいいかもね
「はぁ…毎日雨だとさすがに嫌になるわね…」
 連日の雨模様にうんざりして、私―――アリス・マーガトロイドは窓から空をにらみつけた。
 最近は季節が梅雨に入ったせいで、ずっと雨が降ってばかりだ。
「まぁそう言うなって。そういう季節なんだから仕方ないだろ」
 後ろから聞こえてくる私をなだめる声に振り返る。
 そこにいたのは私より少し背の低い、金髪の少女―――魔理沙だ。
 彼女は朝のまだ雨の降っていないときにここへ遊びに来たのだが、突然の雨で帰れなくなっている。
「だけど魔理沙、さすがにこれは飽きてこない? 毎日毎日雨ばっかりなのよ?」
 確かに私も最初の2、3日は季節だからと諦めていた。
 だけどさすがに、それが5日連続となってくると機嫌も悪くなる。
「まぁそろそろ晴れて欲しいところではあるけどな。でも雨が降るといいことだってあるぜ」
「そりゃ、悪いことばかりだとは言わないけどね…」
 魔理沙の言うとおり、雨が降るのは悪いことばかりではない。
 特に植物や川なんかは雨が降らないと困るわけだし。
 ただ、いくら雨が降らなきゃ困るといっても、限度ってものがあると思う。
「それに雨が降ってると、アリスの家に私以外訪ねてこないしさ」
「それはそうよ。ただでさえ森の奥地なのに、こんな雨の日に訪ねてこようなんて魔理沙ぐらいなものよ」
「あぁ、だからさ…」
 そこまで言うと魔理沙は、スッと私の後ろに回りこむ。
 一体何をするつもりなのかと首をかしげていると―――
「こんなふうに、アリスと思う存分イチャつける」
 ―――いきなり後ろから抱きしめられた。
「ちょ、ちょっとっ!? い、いきなりなにするのよっ」
「なにって抱きしめてるんだけど。アリスは嫌か? こういうことされるの」
「べ、別に嫌じゃ…ないけど」
 いきなりやられて驚きはしたが、こうされるのは嫌じゃない。
 その証拠に、いきなりだったのに振り払おうとしていないのだから。
 というか、嫌どころかちょっと嬉しいし…。
「アリスは、とってもいい匂いするな。心が落ち着くよ」
「ば、ばかっ。なに言ってるのよっ」
 その言葉に、顔が熱くなるのを感じる。
 別に、魔理沙がこんなことを言うのは初めてじゃない。
 だけどいくら言われたって、こんな恥ずかしい言葉になれるなんて出来そうにない。
「アリスは本当に可愛いな。こんなに可愛い子なんて、そういないぜ?」
「そ、そんなこと言って…ど、どうせ他のやつにも同じようなこと言ってるんでしょ」
 半分照れ隠しで、もう半分は本気で追求するつもりでそんな言葉を口にする。
 魔理沙はなんというか、人によっては口説き文句のように聞こえる言葉を、平気で他の子にも言う。
 本人は自覚していないのかもしれないが、私以外の子に今と似たようなことを言っている場面に出くわしたことが何度かある。
 まぁさすがに、抱きしめたりしてるのは見たことないし、していないと願いたいけど。
「そんなこと…―――あ〜、無意識のうちに言ってないとはいえないかも」
 一度は否定しようとしたのだが、本人もどうやら自信を持ってNOとはいえないようだ。
 …これはそうとうな天然ジゴロである。
「ほらやっぱり言ってるんじゃないっ。これだから魔理沙は―――」
「―――だけど、これだけはアリスにしか言わない」
 魔理沙の言葉に私は文句を言おうとするが、それを魔理沙にさえぎられる。
 抜け出そうとしたのをさらに強く抱きしめられ、ささやくように、だけどはっきりと耳元で言われた。
「アリスのこと、大好きだぜ―――愛してる。これだけは、誓ってアリスにしかいってないぜ」
「なっなななっ! い、いまそれを…し、しかもいきなり言うなんて卑怯よっ!」
 完全に不意打ちの甘い言葉に、完全に動揺してしまう。
 本当に魔理沙はずるい。そんな風に言われたらこれ以上怒る気なんてなくなっちゃうじゃない…。
「ははっ、赤くなってる顔も可愛いなアリスは」
「な、何言ってんのよバカっ」
 後ろから顔を覗き込まれそうになり、慌てて顔を逸らす。
 鏡では見てないけど、絶対今の顔は真っ赤に違いない。
 だって、すごく顔が熱くて、こんなにも胸が高鳴っているんだから。
「さて、私も言ったんだからアリスからも聞きたいな。同じ言葉を」
「はぁっ!? な、なにいってるのよあんたはっ!?」
 魔理沙のさらなる追い討ちの言葉に、思わず非難の声を上げる。
 今でさえ顔から火が出そうなのに、その上そんなこと言わされたら間違いなくのぼせ上がってしまう。
「なんだよ、アリスは私のこと嫌いなのか?」
「そ、そんなわけないでしょっ? だいたい私の気持ちなら前に伝えたし…!」
 そう、今までの様子を見ればわかるかもしれないが、私と魔理沙は両想いなのだ。
 だから私の気持ちもすでに伝えてあるし、魔理沙だってわかっているはずだけど…。
「それでも今、聞きたいんだ。ダメか?」
 それでも聞きたいと、魔理沙は真剣な声で言ってくる。
 再び強めに抱きしめられて、私の鼓動はどんどん早くなる。
 だから、そんな言い方は卑怯だってば…。
 そんな言い方をされると、どうしても断れなくなってしまう。
 本当に、惚れたほうの負けってやつね…。
 少しの間迷ったが、覚悟を決め口を開く。
 た、確かに私も魔理沙が…その、好きって言ってくれたとき、嬉しかったし。
 魔理沙が私のこと…す、好きだって分かってても、やっぱり言ってもらえると嬉しいしね。
 だから―――
「え、えっと…その……わ、私も魔理沙のこと…だ、だい………だい、好きよ。……あ、あいし…てる」
 あまりの恥ずかしさに昏倒しそうになるのを押さえ、なんとかその言葉を絞り出す。
 うぅ……し、心臓が張り裂けそうって、たぶんこういうことを言うのね…。
「ア、アリスーーーーーっっ!!!」
「きゃあっ!? 痛いってば魔理沙っ!」
 突然叫びを上げたと思ったら、いきなり思いっきり強く抱きしめられて悲鳴を上げる。
「悪い悪い…つい嬉しくてさ」
「そ、そんなに喜ぶことでもないでしょっ。ま、前にも言ったことなんだし」
「確かにそうだけどさ、アリスあんまりそういうこと言ってくれないだろ。だからちゃんと言ってくれたのがすごく嬉しくてさ」
「そ、そう…」
 態度で素っ気無いように装いながらも、内心魔理沙がそこまで喜んでくれたことが嬉しかった。
 だって、それだけ私のことを想ってくれているということだから。
「なぁ、アリス」
 少し落ち着いたのか、優しい声でささやかれる。
「…なによ?」
「…しばらく、このままで居てもいいか?」
 それはずっとこのまま抱きしめていたいと言うこと。
 答えはもちろん―――
「す、好きにすれば…」
 ―――いいよとは言えなかった…。
 だって、まだ恥ずかしいんだもの…。
「…さんきゅっ」
 それでも魔理沙はその答えに満足したように、私の肩に頭を乗せて目を閉じた。
 その顔はなんだか、とっても幸せそうな顔に見える。
 そんな様子に誘われて、私は魔理沙の手の甲に、そっと自分の手のひらを重ねる。
 外はまだまだ雨が降り続いていた。
 初めはあんなにうんざりしていた雨も、今では少しだけ好きになれそう。
 これもきっと魔理沙のおかげ。
 だから―――
 
 たまには雨も、いいかもね。




<あとがき>
 今回は前に書いたのが糖分控えめだったので、少し甘めにしてみましたがいかがでしょう?
 一応、お互いの気持ちを確かめ合った後のマリアリって感じです。
 やっぱり甘めの話は書いてて楽しいですね。
 これからはこういう話も、沢山書いていけるようにしたいです。






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