ちょっぴり不安
 私の恋人であるあなた―――

 顔はとっても可愛らしいくて
 しゃべる話はどれも面白くて
 ときには頼りになってカッコいい

 そんな皆の人気者
 

 あなたの恋人である私―――

 可愛らしくなんかなくて
 一緒に居ても楽しくなんかないし
 ちっとも優しさなんてない

 それなのに―――
 どうして魔理沙は、私を選んだのかな?


「……魔理沙って、モテるわよね?」
 目の前で私の焼いたクッキーに噛り付く魔理沙を見て、そんなことを呟く。
 その言葉に驚いたのか、魔理沙はごほごほと咳き込んでしまった。
「な、なに言ってんだよアリスっ? 確かに今思えば、前はいろいろあったかもしれないけど、今はアリス一筋だぜっ!?」
 なにを勘違いしたのか、突然言い訳じみたことを言い始める魔理沙。
 まぁその辺は、魔理沙も無意識のうちにやっていたと分かっているので今更どうこう言うつもりはない。
 …私も、その天然ジゴロの被害者なわけだし…。
 今言いたいのは、そういうことじゃなくて…。
「そうじゃなくてね…。ねぇ魔理沙、なんで私のこと好きになったの?」
「えっ!? あ、いや…。て、照れると可愛いとことかさ。なかなか素直になってくれないとことか、
一緒に居ると退屈しないとことか……挙げたらキリがないぜ?」
 少し赤くなりながらも、しっかりとそのことを言ってくれる魔理沙。
 正直とっても嬉しい。
 だけど、今の様子を見ていても魔理沙はとっても可愛い。
 それこそ、私なんかよりもずっと…。
「じゃあさ、なんで魔理沙は私のこと、選んでくれたの…?」
「なんでって…。そんなのアリスのことが誰よりも好きだからに決まってるだろ? どうしたんだよ急に」
 私の質問がいきなりすぎたのか、魔理沙は首をかしげている。
 確かにちゃんと口に出して、このことを聞いたのは初めてかもしれない。
 だけどこれは、魔理沙と付き合い始めてからずっと私の中にあった悩み。
「魔理沙は私より可愛いし、明るくて話も面白いし、ときにはとっても格好よくて、皆に人気あるじゃない。
それなのに、どうして私なんか選んだの?」
「おいおい、アリスなに言って―――」
「魔理沙は可愛いって言ってくれるけど、私なんて全然可愛くないし、話なんかも面白くないし、優しくも出来てない…。
それなのにどうして魔理沙は私を選んだの?」
 私の中にあった悩み。
 それは自分は魔理沙につりあっているのかと言うこと。
 魔理沙は確かに私の恋人になってくれた。
 告白してくれたのも魔理沙だし、その言葉を信じられないわけじゃない。
 だけど時々思うのだ。
 こんな魅力のない私では、いつか魔理沙は愛想を尽かしてしまうんじゃないか? 他のもっと魔理沙に相応しい女の子に、
彼女を盗られてしまうんじゃないかって。
「それは違うぜアリス。アリスは自分のことだからそんなふうに思ってるのかもしれないが、アリスはとっても可愛いし、
私はアリスと居るとすっごく楽しい。それに今日焼いてくれたクッキーだって、私がこの前食べてみたいって話の間にちょこっと言ったやつだろ?
 特に頼んでも居ないのに、そのことを覚えてて作ってくれるなんて普通は出来ない。それが出来るのはアリスが優しいからだよ」
 魔理沙がそう言ってくれるのは分かっている。
 だって魔理沙は優しいから、私が全然魅力がないのも全部許せてしまうんだ。
 だけど私はわかっている。それが自分のことだから余計…。
「そんなことないわっ。私は可愛くも楽しくも、優しくもないのっ。そんなふうに見えるのは―――」
「―――アリスっ」
 強く名前を呼ばれ、私は思わず口を閉じる。
 すると次の瞬間には魔理沙に両肩を掴まれていて、そのまま―――唇を魔理沙のそれで塞がれていた。
 その口付けはいつもの優しい感じじゃなくて、少し強めのキス。
 されている時間も長くて、一瞬あわせる程度がほとんどだった私には、1分にも1時間にも感じられた。
「それ以上は……やめてくれないか?」
「魔理……沙…?」
 唇を話した後の魔理沙の瞳は、とっても真剣で、心まで貫かれるんじゃないかと思うほど真っ直ぐだった。
 突然のキスと、今まで感じたことのないほどの強い視線に、私は言葉を失う。
 心臓の鼓動はこの少しの間で驚くほど早まって、今にも張り裂けてしまいそう。
「アリスは―――アリス・マーガトロイドは、私が世界で一番愛していて、なによりも大事な女の子なんだ。その子の悪口をいうことは、
誰であっても許せない。例えそれがアリス自身であってもな」
「魔理沙……」
 魔理沙の力強い言葉とその節々に感じられる私への気持ちが、私の心を高鳴らせる。
 そこまで言った魔理沙は、ふっと力の抜けたようにいつもの笑顔に戻り、私に笑いかけてくれる。
「大丈夫、アリスは絶対に可愛いし、優しいよ。一緒に居ても楽しい。これは私が保証するぜ?」
 魔理沙が言ってくれることは、確かに嬉しい。
 だけど、その言葉に甘えてしまってもいいのだろうか?
 魔理沙のことは大好きだし、その言葉も信じてあげたい。
 けれどそのことで、魔理沙に無理をさせてしまうんじゃないかという気持ちが、私に返事を戸惑わせる。
「それにさ、私の言い方が悪かったみたいだ」
「え? 魔理沙に悪いとこなんか…」
 魔理沙の言ったことに、何一つ悪いところなんてなかったと思う。
 私を褒めてくれたり、元気付ける言葉しかいっていなかったし、その言い方に悪いところなんて…。
「アリスはさ、私とそっくりの見た目と、そっくりの性格をしたやつが現れたら、そいつのこと好きになるか?」
「えっと…それは」
 その質問に、思わず詰まってしまう。
 魔理沙と同じ容姿、同じ性格をした人が現れたとして、私は好きになるんだろうか?
「幻想郷ではまだ見たことないが、外の世界まで探し回れば一人ぐらい、まったく同じとはいかなくとも、かなり似たやつがいるかもしれないじゃないか。
でも仮にそんなやつが居たとしても、私は好きにならないと思うぜ?」
「なんで? 私と同じ容姿で同じ性格なのよ? それなのにどうして…」
「それはさ、アリスに似ているだけであって、アリスじゃないからさ」
 その言葉にはっとする。
 確かに容姿も性格も同じならば、ほとんど同じと言えるかもしれないけど、それは魔理沙自身ではないし、私自身でもない。
「私はアリスがアリスだから好きになったんだ。アリスの可愛いところとか、優しいところ。一緒に居て楽しいところも、確かに好きになった理由の一つだぜ?
 だけど一番の理由は、お前がアリス・マーガトロイドだからだ」
 その言葉が胸に染み渡る。
 なんだかその言葉を聞いているうちに、今まで自分が悩んでいたことさえ、バカらしく思えてきた。
 だって、魔理沙はここまで自分のことを強く想ってくれていたんだと、感じることが出来たから。
「容姿や性格以外にどんな違いがあるんだって聞かれると、はっきりとは答えられないけど、それ以外にもきっと何かがあるんだと思う。
それがアリスがアリスであることなんだよ」
 魔理沙の言っていること、なんとなく分かる気がする。
 確かにはっきりと断言は出来ない。
 だけど魔理沙の見間違うほどのそっくりさんが現れたとしても、私はその人を好きにはなれない気がした。
 その感覚がきっと、魔理沙が言っている何かなんだろう。
「だから自分にもっと自信を持ってくれよ。アリスは私が世界で一番愛している―――アリス・マーガトロイドなんだぜ?
 そうじゃないとこんなにもアリスを愛している、霧雨魔理沙が可哀相だろう?」
 そうだ、だからこそ自信を持とう。
 だって自分は、こんなにも素敵な少女―――霧雨魔理沙が愛してくれる、たった一人の“アリス・マーガトロイド”なんだから。
「魔理沙……ありがとう。なんだかちょっとだけ、自信持てそうな気がする」
「ははっ、どういたしまして。それより早くお茶にしようぜ? 実はこのクッキー、結構楽しみにしてたんだ」
 そうして和やかな雰囲気で、その日のお茶会は再開した。
 今日のことで再認識したけど、やっぱり魔理沙はとっても素敵な女の子だ。
 今までも好きだったけど、もっと好きになっちゃったかも。
 だからこそ自信を持って、他の子に負けないように頑張らなくちゃね―――




<あとがき>
 ぶっちゃけ、「アリスは―――アリス・マーガトロイドは〜」の件が書きたいがために、このSS書きましたw
 なんか途中で前に書いた、ゆかれいむ小説とかぶってなくもないですが、スルーお願いします(^^;)
 それに、魔理沙が相手なんですから、アリスも心配になって致し方ないかと。
 それにしてもこの魔理沙、男らしいな…(^^;)






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