二人でお昼?
 今日は朝から雲ひとつ無い快晴。
 太陽は地上へと柔らかに降り注ぎ、風も時々軽く吹く程度でとても心地がいい。
 まさに昼寝をするなら絶好のお天気だ。
 そしてそれは、目の前で居眠りしている彼女にも言えることなのだろう。
「はぁ…いつものこととはいえ、また寝てるのね美鈴は」
 あまりにも気持ちよさそうなその寝顔に、もはや怒る気さえも失せてしまう。
 うちの門番にも本当に困ったものだ。
「まったく、せっかく差し入れまで持ってきたんだから、これを渡しに来るときぐらい起きてなさいよね」
 最近仕事が忙しくて一緒に居る時間が短かったから、少しぐらい労ってあげようかと思って来てみればこの通りである。
 他のときは寝ていても―――いいわけはないが、それでも私が見に来るときぐらいは起きているぐらいの器用さはないのだろうか。
 …まぁ、そんなものがないことは私が一番よく知っているけど。
「それに、そこも美鈴のいいところだしね……って、なに一人で言ってるのかしら私っ」
 つい口から出てしまった独り言に、恥ずかしくなって顔を赤くする。
 慌てて周りを確認するが、私達以外の人影は居ないようなので、一安心だ。
「ふぅ…さて、この居眠り門番をどうしてくれようかしら」
 いつものように叩き起こしてもいいが、それでは芸がない気もする。
 いや、人を起こすのにそんな考える必要もないのだろうけど、今日は違う方法で起こしてみたい気分なのだ。
 う〜ん、ここは耳元で衝撃的な一言を言うというのはどうだろうか?
 人によってはそれで飛び起きるらしいけど、はたしてどうなんだろう。
「美鈴、早く起きないとしばらく口きいてあげないわ―――」
「―――紅魔館門番紅美鈴ッ! 只今起床いたしましたッ!!」
 全部言い終わらないうちに、今までのだらけた寝顔が嘘のような速さで美鈴は立ち上がり、ビシッと敬礼をする。
 あまりの効き目の強さに、少しの間呆気に取られてしまう。
 というか、あんな顔して狸寝入りとかじゃないでしょうね?
「あのね、そんなに機敏に動けるなら、普段の仕事にもその動きを生かしなさいよ。寝てばっかりいると、そのうち毛玉にも勝てなくなるわよ」
「い、いえ…いくらなんでも毛玉には…。それに、これでもちゃんと鍛えてますから―――って、咲夜さん、そのバスケットはいったい…?」
 美鈴の視線が私の手に持っているバスケットに注がれる。
 これは美鈴とお昼を一緒に食べようと思って作っていた、サンドイッチや紅茶などが入っているわけだけど…。
「だめよ。これは仕事中に居眠りなんかしない、真面目な門番さんと食べるために作ってきたものなの。あなたみたいな怠け者にはあげられないわ」
 そう言って、私はバスケットを身体の後ろに隠す。
 別にこのまま食べてもいいし、私もそのつもりで来たんだけれど、私が来たというのにあまりにも気持ちよさそうに美鈴が寝ていたから、ちょっと腹が立ったのだ。
「そ、そんな〜。お願いしますよ咲夜さんっ、もう居眠りはしない……とは言い切れませんが、出来るだけしないように努力しますから〜…」
「はぁ…この期に及んでしないとは言い切れないわけ? ホントにあなたは居眠り門番ね」
 美鈴の言葉に、本日何回目かのため息をつかされてしまう。
 正直なのは確かにいいことだけれど、こんなところでまで素直に本心を話すことはないのに。
 …さっきまではしばらく許してあげないって思っていたんだけど…。
「…ホントに、ちゃんと反省したの?」
 美鈴のしょんぼりした顔を見たら、ついそんなふうに言ってしまう。
「は、はいっ! 今度からは気をつけますっ!」
「まったく…今回は特別よ?」
 自分でも甘いなとは思いつつ、バスケットを美鈴に差し出す。
 するとさっきまで暗くなっていた美鈴の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます咲夜さん!」
 嬉しそうに笑う彼女の表情を見ていると、思わず頬がほころんでしまう。
 やっぱり美鈴には明るい笑顔が一番似合うから。
「じゃあさっそく食べましょう! 私お腹空いちゃいましたっ!」
「もう、ホントに調子いいわね。まぁいいわ、とりあえず食べましょうか」
 その場に腰を下ろし、バスケットからサンドイッチを取り出して美鈴に手渡す。
「はい。仕事で忙しい中で作ったから、あんまり味は保障できないけど」
「そんなことないですよ。咲夜さんが作ったんだから美味しくないはずないですっ」
 そう言って受け取ったサンドイッチにかぶり付く美鈴。
 よほどお腹が空いていたのか、あっという間に一つ目を食べきってしまった。
「とっても美味しいですっ。さすが咲夜さんですねっ」
「あ、あのねぇ…サンドイッチぐらい誰でも美味しく作れるわよっ」
 あんまり美鈴が満面の笑顔で褒めるから、恥ずかしくなって顔を背けてしまう。
 本当に美鈴は包み隠さずと言うか、ストレートに気持ちを伝えてくるから、時々対応に困ってしまうのだ。
「そんなことないですよ。私が作ったってこんなに美味しくはなりませんし、咲夜さんが私のために作ってくれたんですもの、美味しくないわけがないです」
「なっ、なんで私があなたのために作ったことになってるのよっ。そんなわけ―――」
「―――でも咲夜さん、私と一緒に食べるために作ってきたって言いましたよね? それって半分は私のために作ったってことじゃないですか?」
「うぐっ…」
 思いっきり図星を突かれてしまい、言葉を詰まらせてしまう。
 いっつもはボケっとしてるくせに、こういうときばかり鋭いんだからっ…!
「あっ、あんなのただの言葉の綾よっ! それに私が一緒に食べようと思ってたのは真面目な門番で、別にあなただなんて言ってないわっ!」
「そうは言ってもここの門番なんて私しか居ませんし、咲夜さんは外の誰かとお昼を食べるためだけに、お嬢様を置いて外に出かけたりしませんよね?」
「うっ…そ、それは…」
 美鈴がニコニコしながら、話の揚げ足を取ってくる。
 あれは明らかに、私が動揺してるのを見て楽しんでいる目だ。
 うぅ〜、美鈴のくせにっ…!
「もう揚げ足ばかりとってくる門番なんか知らないわっ! 一人寂しくサンドイッチでもかじってなさいよっ!」
 そういい捨てて私は立ち上がる。 
 まったく美鈴はなんでこんなに―――
「きゃっ!?」
 急に後ろからぐいっと引き寄せられて、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
 びっくりして後ろを振り向こうとすると、すぐ真横に美鈴の顔があった。
 身体のほうには腕が回されていて、どうやら後ろから美鈴に抱きしめられているみたい。
 …………って、えっ!?
「ちょ、ちょっと美鈴っ!?」
「すみません、咲夜さんがあまりにも可愛いので、ついからかいすぎてしまいました」
「か、可愛いってっ…! な、なに言ってるのよっ」
 急に耳元で囁かれる甘い言葉に、顔の温度は急上昇する。
 胸のドキドキはどんどん早くなって、美鈴に聞こえてしまうんじゃないかって心配になるくらい。
「咲夜さん、最近私と一緒に居られる時間が短かったから、気を使って一緒にお昼を食べに来てくれたんですよね?」
「えっ!? な、なんで…」
 バッチリ心の中を見抜かれてしまい、顔がさらに熱くなる。
「わかりますよ。だって咲夜さんはとっても優しいですから」
 そんなことを言われて、身体の熱はどんどん上がっていくばかり。
 わ、私なんてそんなに優しくなんて…。
「本当に咲夜さんは、優しくて可愛らしい、素敵な女性です」
「ば、ばかっ…そんな恥ずかしい台詞…」
 次々と出てくる嬉しいけれど気恥ずかしい言葉の数々に、体温と心拍数は最高潮に達する。
 正直このままだと、のぼせ上がってしまうかもしれない。
「咲夜さん、こっちを向いてもらえませんか?」
 美鈴と向き合うのがちょっと恥ずかしいけど、断るほどのことでもないから、素直に彼女のほうに向き直る。
 すると振り向いた瞬間―――おでこに優しくキスされた。
「め、美鈴っ! こ、こんなの恥ずかしいわよっ!」
「ふふっ、私は恥ずかしくないから大丈夫ですよ」
 慌てる私とは対照的に、美鈴はいたずらっぽい笑顔を浮かべている。
 ホントに普段はダメダメなくせに、こういうときだけは調子いいんだからっ!
「ねぇ咲夜さん、一つお願いがあるのですが」
「な、なによ…」
 目を合わせ続けるのが恥ずかしくて、目を逸らしながら返答する。
 美鈴のお願いとは何だろう?
 でも、今までの流れからして、なんか嫌な予感しかしないような…。
「私からキスしたことは何度もありますけれど、咲夜さんからしてもらったことないですよね? …だから、今日は咲夜さんからして欲しいです」
「なっ!? き、キスって……こ、ここでっ!?」
 美鈴の口から出たあまりの無理難題に、思わず大声を上げてしまう。
 ききっ…キスって、しかも今からここでなんて無理に決まってるじゃないっ!
「はい、だって今ここでしなかったら、逃げられてしまう気がしますから」
「うぐっ……」
 さっそく逃げる算段をしていたところに先手を打たれ、言葉を詰まらせる。
 こんなふうに言われてまで逃げるのは何か負けた気がするけど、だからってここでその……出来るかと言うと、無理なわけで。
 しかしここで出来ないとか言うと、やっぱり咲夜さんは恥ずかしがり屋ですね〜、とか美鈴に笑われそうだ。
 やっぱりここは、今後の関係で優位に立つためにも、覚悟を決めて…―――

「だ〜っ! で、出来るわけないじゃないっ! だ、だいたいなんでそんなにサービスしてあげなきゃないのよっ! あなた居眠りしてたくせにっ!」

 やっぱり出来るわけがなかった。
 私も正直…その―――き、キス………したいという気持ちも、あったりしなくもないかもしれなくもない…気がする。
 で、でも居眠りしてた美鈴を、そこまで甘やかすのはどうかと思うし!
 うん! だからきっとここはしちゃ駄目なのよきっとっ!
「そんなに私からキスして欲しいんだったら、10日くらい居眠りもせず侵入者も完璧に撃退して見せなさいっ! そうしたら考えてあげるわっ!」
 私はそう言い放つと、全速力で走り出した。
 ホントは時を止めて歩いたほうが疲れないし、美鈴にも追いつかれないんだけど、そんなことあまりの恥ずかしさで気づかない。
 美鈴が後ろで何か言っている気がするが、無視して紅魔館へと駆け込んだ。
 べ、別に美鈴から逃げたわけじゃないわ。
 私は紅魔館のメイド長。
 そんな私が、紅魔館門番である美鈴を甘やかすわけにはいかないもの。
 


 ―――その後一週間経ったある日、パチュリー様からこんな話を聞いた。
「なんだか最近美鈴が頑張ってるみたいね。ここ一週間は居眠りもしていないし、侵入者の一人も許していないらしいわよ。でも、いったいどういう風の吹き回しかしらね」
「あ、あはははっ…ま、まぁ真面目になったと言うことでいいんじゃないでしょうか?」
 あと3日か……。
 ま、まさかホントに10日間守りきらないわよね?






<あとがき>
 早草さんのサイトと相互リンクしていただいたお礼に書きましためーさくです。
 今回がめーさく初書きなのですが、ちゃんとめーさくになってますでしょうか?
 早草さんのお好きなめーさくになっていれば嬉しいです^^
 というか、それぞれの二人のキャラがこれでいいのか心配です^^;
 もちろんイメージだけで書いたわけではないのですし、二人とも練習に
 書いたことはあるんですけど、咲夜さんが動揺したところとか今まで書いたこと
 なかったので、ちょいと大変でした;
 でも二人とも好きなキャラなので書いてて楽しかったですけどね^^
 ところで、「あったりしなくもないかもしれなくもない…気がする」って
 自分で書いといてなんですけど、Yesってことでいいんですよね…?w
 これからも気が向いたら、めーさくも書こうかな?
 では早草さん、相互リンクありがとうございました!






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