紫、お参りをする?
「霊夢〜、いませんの〜?」
 太陽が一日で一番頑張っている時間であるお昼過ぎ、私―――八雲紫はいつものように博麗神社へ遊びに来ていた。
 だけど、やってきたはいいけど霊夢の姿が見えない。
 どうやらどこかに出かけているようだ。
「…だけど最近、留守なことが多くありません?」
 前は大抵、この時間帯は家に居たと言うのに、ここ一週間はいつも留守である。
 まぁ霊夢もなにか用事があることだってあるだろうし、必ず家にいるわけではないから仕方ないのだけど…。
「はぁ……どうしましょう」
 別になにか大事な用があるわけでもない。
 今までもちょっと覗いて霊夢が居なければ、それで帰ることにしていたんだけど…。
「少しだけ、待ってみようかしら」
 そう自分の中で結論付けると、縁側に腰掛ける。
 床は太陽の光で程よく温まっていて、思わず眠くなってしまいそうだけど、今はそんな気分にはなれなかった。
「それにしても、ここ一週間霊夢に会ってませんわね…」
 他に大事な用事がなければ、ほぼ毎日博麗神社には遊びにきているのだが、ここ一週間は特に一日も空けずに訪ねに来ていたのだ。
 それなのに霊夢には一回も合えずじまいだった。
 今日までは少し覗いていなければあきらめていたのだが、今回は少し待ってみることにする。
 なんせ一週間もの間会えていないのだ。
 確かに一日や二日なら、霊夢も家を空けていることもあるだろうけど、一週間丸ごと留守なんてことは今までなかった。
 もしかしたら私が訪ねてくる時間帯に限って、家に居ないということもありえるかもしれないけれど。
 ……もしかして、避けられてますの?
「そ、そんなことありませんわっ! 霊夢と私に限ってそんなこと……」
 浮かび上がってきた不安を、首を横に振って振り払う。
 でも口ではそんなこと言っても、心の中ではかえって心配になっていった。
 だけど霊夢に避けられる理由なんて………割と思い当たってしまう。
 そもそも私は、霊夢に好かれるようなことをしてきた覚えがない。
 会うたび会うたび意地悪なことをしてきた気もするし、逆に喜ばれるようなことをした覚えはまるっきりなかったりする。
 ……そんなことでは、避けられても当然なのかもしれない。
「はぁ……もしかして、魔理沙の所にでもいってるのかしら? それとも紅魔館とか…」
 霊夢から遊びに行くことは少ないかもしれないけれど、ないとは言い切れない。
 それに、誘われていっているということもあるかもしれないし。
 もしそうだとしたら魔理沙のところならまだいいけれど、レミリアのところや守矢神社などは心配でたまらない。
 なにせ、レミリアは霊夢を狙っている節があるし、早苗もなんとなくだが怪しい感じがする。
 他にも萃香だって……。
「ホントに霊夢は可愛すぎるんですわ…。だからこんなに競争率が激しくなるのよ」
 霊夢本人に言っても信じようとしないけど、かなり霊夢は可愛いと思う。
 私を含め、霊夢を狙う人数が増えるのも納得だ。
 それに霊夢には、不思議と人や妖怪など、いろいろなものをひきつける力がある。
 それのおかげで博麗神社にはいつも霊夢の他に誰か居るし、私が来たときにも誰かとお茶を飲んでいることも少なくない。
 ちなみにそれなのにお賽銭が増えないのは、来る人来る人が妖怪ばかりなのでさっぱり入れていかないばかりか、妖怪が居るせいで
人間がまったく寄り付かなくなってしまったせいである。
「霊夢、好きな人っているのかしら……」
 ふと、そんなことをつぶやいてしまう。
 霊夢の好きな相手……この様子だと、私という可能性は低いような気がする。
 自業自得なのだが、ついつい霊夢と会うと困った顔が見たくなってしまい、意地悪をしてしまうせいで、霊夢にはあまり良い印象を持たれていないだろう。
 ならやめればいいだろうと思われるかもしれないが、からかった時の霊夢の表情とか反応があまりにも可愛くて、どうしてもやめられないのだ。
 …かといって、このままじゃマズイと思う。
 レミリアは私と同レベルだから安心だけど、萃香なんて結構霊夢と仲よさそうだし、よく一緒にお酒を飲んでいたりする。
 早苗もおなじ巫女同士、よく遊びに来たりしてるし…。
「でもだからって、無理に優しくしたりするのもなにか違いますわよね…」
 いきなり優しくし始めても、今までの私の行いからして裏があるんじゃないかと勘ぐられそうだし、不自然だろう。
 かといって、このまま同じことを繰り返していては、霊夢は振り向いてくれないだろうけど。
「はぁ……お賽銭でも入れてみようかしらね」
 そう思い立って私は、お賽銭箱の前まで歩いていく。
 私が神頼みなんて自分でも可笑しいと思うが、他に手が思いつかない。
 それにここの博麗神社は、他の事にご利益はなくても霊夢のことに関しては抜群の効果がありそうな気がする。
 本人の家なわけだし…。
「さて、いくらくらいがいいのかしら?」
 スキマから自分の財布を取り出しつつ思案する。
 普通なら5円とか10円とか、多くても100円かそこらだろう。
 だけどこの願いは絶対に叶ってほしいものだ。
 それに霊夢も「入れる金額が大きければ、それだけ願いも叶いやすいわよ」と言っていたし。
 …まぁ、霊夢の場合は沢山お賽銭欲しいだけだろうけど。
「1000円? ……奮発して5000円とか…」
 1万円はさすがにやりすぎだと思うけど、正直絶対叶うというならそのぐらい入れてもかまわない。
 だって今からする願いは、私にとってそれぐらい大事なものだから。
 結局迷って、5000円札を取り出しお賽銭箱に入れて、手をたたく。
 そして一呼吸おき、ゆっくりと願い事を告げた。
「霊夢と………両想いになれますように…」
 柄にもなく顔が熱くなるのを感じる。
 こんなところを霊夢に見られたら、なんて言われるかわかったものでは―――
「あーっ! 紫がお参りしてる!?」
 突然の声に驚き後ろを向くと、そこには―――
「れ、霊夢?」
 今まで頭の中を占めていた少女、霊夢が立っていた。
「なんで紫がうちの神社でお参りなんかしてるのよ? どういう風の吹き回し?」
「あら、私だってたまにはお願い事したくなるときもあるんですのよ」
 突然の本人の登場に動揺する心を押さえ、なんとか平静を装う。
 今の反応から見て、どうやら願い事の内容は聞かれていないようだしとりあえず安心だ。
「ふ〜ん、まぁいいわ。ところでちゃんとお賽銭は入れたんでしょうね?」
「当たり前ですわ。そうしないと叶うものも叶わないでしょ?」
「そりゃそうか、どれどれ…紫はいくらいれてくれたのかしら〜」
 霊夢はお賽銭が入ったのがよほど嬉しいのか、鼻歌まじりに賽銭箱の中身を取り出す。
 …というか、お賽銭入れた本人の前でそれを取り出すのはどうなんですの…。
「え〜っと、おぉ! 5000円札なんて随分奮発してくれたわね! ありがとう紫!」
「もう、別にあなたにあげるためにお賽銭したわけではないんですのよ?」
 思わず踊りだしそうなぐらい喜んでいる霊夢に、私は思わず苦笑いを浮かべる。
 まぁ、霊夢が喜んでくれたのだからよしとしよう。
 …なんだか趣旨が変わってしまっているような気がするけど。
「ところで紫、これだけ大金入れるなんてなんのお願いしたのよ?」
「えっ? …だめですわよ霊夢。それを聞くのは野暮ってものですわ」
 あやうく動揺を表に出しそうになって、なんとか取り繕う。
 とてもじゃないけど、あんな恥ずかしい願いは私の口から言えるわけがない。
 それも霊夢本人に対してはなおさらだ。
「まぁそうなんだけど、でも気になったのよ。私が言うのもアレだけど、こんな願いが叶いそうもない神社に5000円も入れるなんて、
どんな願いしたのかなってね」
「ホントに、あなたがそれを言ってはどうしようもないですわね…」
 そんな相槌を打ちつつ、心の中では必死に霊夢が気づかないようにと願う。
 おそらくこの少ない情報の中から答えに行き着くことはないだろうけど、霊夢は勘がいいところがあるから油断できない。
「う〜ん………もしかして、私関係のことだったりして?」
「なっ? なに言ってるんですの? どうして私が博麗神社でお参りすると、霊夢関係のことをお願いしたことになりますの?」
 霊夢の言葉に心臓が跳ね上がる。
 まさかとは思ったが、こんな簡単に勘付かれるなんて…!
「いや、唯一この神社で他の神社よりご利益がありそうに感じるのって、そのぐらいなものかな〜と思って。違った?」
「ふふっ、そんなわけがないでしょう? なんで私が霊夢のことをお願いするんですの? そんなことより霊夢こそ最近はどうしたんですの?
 ここ一週間姿を見ませんでしたけど」
 表ではなんてない振りをして、なんとか話題を逸らそうと別の話を振る。
 それに、その霊夢が居なかった理由も気になっていたし。
「あ〜、それはね……。その、紫はこの一週間私に会えなくて寂しかった?」
「えっ、えぇ…私は寂しかったですわよ? 霊夢の可愛らしい顔が見れなかったですからね」
 私はいつもの冗談のような調子を混ぜつつ、本当の気持ちを告げる。
 霊夢に会えなくて寂しくないわけがない。
「寂しかったんだ…。じゃあ、脈あり……なのかな?」
 てっきり可愛いと言ったから、いつものように赤くなって怒り出すと思ったら、顔は多少赤くなったものの怒り出しはせずに、思案顔で黙り込んでしまった。
 はて、いったいどうしたのだろうか?
「ところで霊夢、結局留守の理由はなんだったんですの? 今まであなたがこの時間帯に、一週間もの間連続で留守していたことなんてなかったと思いますけど」
「えっ? あ〜、実はね…その、アリスのところに行ってたのよ」
「アリスのところ…ですの?」
 意外な人物の名前に、ちょっと面食らってしまう。
 だけど、よく考えれば意外でもなんでもなかった。
 なぜなら、霊夢を狙っている可能性が皆無だから意識の外から外していたけど、霊夢が一番仲がいいのは他ならぬアリスなのだから、
霊夢がアリスの所に遊びに行っていてもなんら不思議はない。
 霊夢がアリスの所に行くのはちょっと珍しいが、アリスは博麗神社までよく遊びに来ているわけだし。
 でも、それを聞いて安心した。
 別に霊夢は私の恋敵のところへ行っていたわけではなかったのだから。
「でも珍しいですわね。いつもならアリスのほうがこちらに来るのが主ですのに、一週間も連続であなたがアリスの家を訪ねたんですの?」
「それなんだけど、実はその…アリスのアドバイスだったのよ。そのぐらい期間を空けてみれば分かるんじゃないかって」
 それはいったい何に対してのアドバイスなんだろう?
 一週間ぐらい私と会わないでいて、なにが分かるんだろうか?
「それでもし紫が寂しがってたら、多少は脈もあるんじゃないかって…。もしそれで脈があるって分かったら、私から告げることに
……少しはきっかけになるんじゃないかって…」
 霊夢が顔を赤くしながら、ポツリポツリと言葉を口にする。
 ここまで言われて、霊夢が言っている意味を理解できないほど、私は鈍感ではない。
 だけど、それを理解してはいても信じられなかった。
 なぜなら、さっきまでは自分には絶対に振り向いてくれないだろうと思っていた相手が、霊夢が…私のこと?
「それでね、紫に聞いて欲しいの…。私の、本当の気持ち……」
「え、えぇ…い、いいですわよ」
 もはや抑えようのないほどに鼓動は高鳴り、顔はさっきとは比べ物にならないくらい熱くなっている。
「私…私ね、その……ゆ、紫のことが………す……す、好き…なの……」
「れ、霊夢……」
 耳まで真っ赤にしながら、霊夢は少しずつ気持ちを告げてくれた。
 霊夢の口から直接言葉が出た今でも、とてもじゃないけど信じられない。
 私は霊夢に想ってもらえるようなことはした覚えがないし。
 だけど今はそんなことよりも、霊夢の想いに応えてあげなければ。
 霊夢は言葉を言い終わってから私の反応が怖いのか、下を向いてしまっている。
 きっとすごく勇気が必要だったに違いない。
 そんな霊夢に近づき、緊張で震える腕を抑えながらそっと抱き寄せる。
「ゆ、紫…?」
 そして一呼吸おき、ゆっくりと自分の気持ちを言葉にする。
「嬉しいですわ霊夢。…私も霊夢のこと、大好きですわ」
「えっ!? ほ、ホントにっ?」
「えぇ、実はさっきのお願い事も、霊夢が振り向いてくれますように…というものでしたのよ?」
 もう隠しておく必要もないので、先ほどの願い事の内容も白状する。
 …もしかして、さっそくご利益があったのかしら?
「…ところで霊夢、その…どうして私のことを好きになったんですの? 私、あまり霊夢に好かれるようなことをしてきた覚えがないのですけど…」
 想いが通じ合ったところで、そんな疑問を口にする。
 霊夢が私のことを好きで居てくれたのは嬉しいけど、どうしてもその理由が思いつかなかった。
「えっと……なんで好きになったかなんて聞かれても、理由なんて無いと思うわ。そもそも人を好きになる理由なんて存在しないと思うし」
「どういうことですの?」
「じゃあ紫は、どうして私のこと…好きになってくれたの?」
「え〜っと、それは…」
 言われて見ると確かに、可愛いところとか一緒に居て楽しいとかがあるが、それは好きになった要因の一つで、必ずしも霊夢を好きになった理由ではない。
「ね? 見つからないでしょ? 私もこれって言う理由はないの。しいていうなら、紫が紫だったからかな?」
「…私が私だったから」
 確かにそういわれると、霊夢が霊夢だったから好きになったのかもしれない。
 もしそうじゃなかったら、霊夢といいところが全てかぶる子が居たとしたら、私はその子も好きになってしまうはずだが、そんな気はまったくしなかった。
 ということは、私は霊夢だからこそ好きになったと言うことだろう。
「なるほどね。ふふっ、まさか霊夢に教わることになるなんて思いませんでしたわ」
「むっ、なによそれ。バカにしてるの?」
「そんなことないですわ。霊夢はそれだけ可愛いってことですわよ」
 上目遣いに睨み付けてくる霊夢にそんな言葉を向ける。
 ホントに、こんな可愛らしい子にまだ教わることがあったなんて、私もまだまだですわね。
「な、なにいってるのよっ。まぁいいわ、それよりアリスにお菓子貰ってきたから二人で食べましょ」
 そう言ってするりと私の腕の中から抜けると、霊夢は家のほうに歩いていった。
 ちょっと名残惜しかったけど、これからはいくらでもする機会はあるだろうし、今は我慢するとしよう。
 そう気を取り直し、霊夢のあとについていこうとすると、霊夢が突然立ち止まった。
 そしてくるりと振り向きながら、
「あのね紫―――」
 眩しいほどの笑顔でこう言った。
「―――大好きっ」
 やっぱり彼女を好きになったのは、霊夢が霊夢だったからのようだと、この瞬間確信した。
 なぜなら今の彼女は、間違いなく世界で一番可愛い女の子だから。
 …なんて心の中では格好つけながらも、顔は真っ赤になっていたけれど。
 どうやらしばらく、私は霊夢に敵いそうになさそうだ―――




<あとがき>
 チルノ絵茶にて哩子さんからいただいたリクです。
 え〜、れいゆか小説ということでしたが、ちゃんとご希望通り書けてるでしょうか…?
 ゆかれいむはいつも書いてますが、れいゆかはちゃんと書くのは初めてなので、上手くかけてるかどうか心配です;;
 そしてイベントが間に挟まってしまったために、遅くなってしまって申し訳ありません><
 しかも遅れておきながらこのクオリティ……orz
 こ、こんな私ですがまた絵茶とかあれば誘っていただけると嬉しいです^^
 というか、参加可能な絵茶でしたら気づいたらこちらから遊びに行かせていただきますねw
 それでは、リクエストありがとうございました!






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