まさかあの二人が…?

 頬をなでる風はすっかり涼しくなり、秋もすっかり深まり始めた日の午後。
 私はいつものように博麗神社へと遊びに来ていた。
 でも……
「う〜ん、霊夢が留守なんて珍しいですわね」
 遊びに来たのはいいのだが、お目当ての霊夢がいなかったのだ。
 今までこの時間帯に訊ねてきて留守だったことなどほとんどないのだけど、珍しいこともあるものだ。
「まぁ、待っていればそのうち帰ってきますわよね」
 特に用事があるわけではないが、ここまで来て霊夢の顔を見ないで帰るなんてなにか損した気分になるし、他に用事があるわけでもないので待ってみることにする。
 異変とかが起こっているなら別だけど、今は異変が起こっている気配もないしおそらく人里に買い物でもいったのだろう。
「でも買い物に行くなら行くで、誘ってくれればいいですのに…」
 霊夢と買い物なんて、よく考えれば一度もいったことがない。
 そもそも買い物自体藍にほとんど任せているため、自分でもしばらく行ったことないのだけれど。
 今度少し早起きして、私から霊夢のこと誘ってみようかしら?
 そんな計画を頭の中で練っていると、突然一陣の風が吹いた。
 穏やかだった風の中で、明らかに自然のものではないそれが吹いてきた方向を見ると、そこには箒にまたがった白黒の魔法使い―――魔理沙が降りてくるところだった。
 あの風の強さからして相当急いできたようだが、いったいどうしたのだろうか?
「ゆ、紫ーっ! た、大変だぜっーー!!」
「あら魔理沙? どうしたんですのそんなに急いで?」
 私の元まで走ってくると、よほど急いできたのか膝に手をつき息を乱れさせている。
 いつも能天気な魔理沙がここまで慌てるなんて、大方アリス関係のことかしらね?
 そう思って私は余裕たっぷりに話しかける。
 …まさか次の瞬間、その余裕が跡形もなく消え去るとは知らずに。
「少しは落ち着きなさい。そんなことでは上手くいくものも失敗してしまいますわよ?」
「これが落ち着いていられるかよっ! だってさ―――」
 そこで一呼吸置くと、魔理沙は本当にとんでもない事実を口にした。
「―――霊夢とアリスがデートしてるんだぜッ!?」
「な、なんですってーーーっっ!!?」



「…未だに信じられないのですけれど、その話は本当なんですのね?」
「ああ、この耳でバッチリ聞いたんだ。間違いないぜ」
 小さな声でひそひそ話している私と魔理沙は、人里の茂みの中にいた。
 なぜそんなところに二人で隠れているかというと、その原因は魔理沙があの後話した信じられない出来事のせいだ。
 今日魔理沙はいつもの通りアリスの家に遊びに行ったらしい。
 それで家までたどり着いたところ、先に霊夢が入っていくのが見えて、普通に入っても良かったのだけれど、ふと悪戯心が湧いて外のほうで二人の話に聞き耳を立てていたのだそうだ。
 ここまではなんてことのないいつもどおりの魔理沙の行動で驚くべきところではないのだが、このときに聞こえてきた霊夢とアリスの会話が、私達にとって驚愕の事実であるのだ。
 その会話と言うのが、
「ねぇアリス、今日は用事とかあるの?」
「いいえ、特にないけれど…どうかしたの?」
「えぇ、天気もいいし、二人でデートでもいかない?」
 というものだ。
 最後の霊夢の一言がとんでもなく重要だ。
 なにせ“デート”である。
 デートとは恋人同士が買い物に行ったり、どこかへ遊びに行ったりするアレのことだ。
 それに霊夢がアリスを誘って、アリスもOKしたらしい。
 ……これは非常に由々しき事態だ。
 ―――“霊夢”と“アリス”が“デート”をしているのである。
 つまりは、二人が……いや、まったくもって100%ありえない話だと思うが、絶対に絶対にぜーーーったいにありえないとは思うのだが、その…………………恋人…………同士だったり……して。
「あ、ありえませんわっ! わ、私と言うものがありながら霊夢がそんなっ!」
 あまりの自分の恐ろしい想像に、悲痛な叫びを上げてしまう。
 霊夢が私以外のものと付き合っているなんてありえない………と、思いたい…。
 だ、だって霊夢とは結構仲良くやってきたはずですし、いい雰囲気になったことだって一回や二回じゃありませんもの!
 そ、それなのにまさかアリスに取られてしまうなんて……!
 そりゃ霊夢とアリスはすごく仲がよかったですけれど、霊夢にアリスとの関係を聞いたときは「う〜ん、一言で言うなら親友ね」って恥ずかしがりもせずに言ってたからそれが真実だと信じていたのに、いつのまにかそんな関係になっていたというのかしら……!
 と、とにかくまだ事実と決まったわけじゃないんだし、この目で確認しなくてはなりませんわ!
 魔理沙の話では、二人は人里に行こうと言っていたらしいから、もうどこかの店にでも入っているはずである。
「さぁ魔理沙、早く確認に行きますわよ!」
「あぁ、アリス…そ、そんな私がいるって言うのに何で霊夢と…! た、確かに霊夢は可愛いかもしれないけど、それでも私のほうがアリスとは雰囲気も良かったし―――」
「ほらっ! グチグチ言ってないで早く行きますわよ!」
 しゃがみこんで頭を抱えている魔理沙の襟首を掴み、ズルズルと引きずりながら移動する。
 本当はスキマで移動したいところだが、うかつに人里で能力なんて使ったら霊夢たちに居場所がばれるかもしれないし、ここは慎重にいった方がいいだろう。
「ほら魔理沙! そんな項垂れてるとアリスが霊夢に取られますわよ!」
「はっ!? そ、そうだったこうしちゃいれないぜ! …………ていうかさ、紫も紫でいつもの余裕全然ないよな?」
「う、うぐっ…!」
 魔理沙の指摘に言葉を詰まらせてしまう。
 つ、つい霊夢のこととなると調子が崩れてしまいますわ…。
 とりあえず落ち着かないと。
「こ、こほんっ……そんなことありませんわよ? さぁいきましょう魔理沙」
「いや、そんなあからさまに取り繕われてもな……」
 魔理沙のツッコミを無視し、私はスタスタと歩き始める。
 今は魔理沙に構っている暇などない。
 早く霊夢の目を覚まさせてあげませんと…!
「お、おい紫っ! ちょっと待てよっ!」
「なんですの? 今はのんびり話してる暇はないのですけれど?」
「そうじゃなくてさ、霊夢たちが居るはずの店ってそっちじゃなくて、こっちだぜ?」
 そう言って魔理沙が指差したのは、今歩いていた方向とまったくの逆方向だった。
「……なぁ紫。やっぱりお前、相当に焦って―――」
「―――な、なんのことかしらね? 私は最近人里に来てないから間違っただけですわよ? さぁ早く行きましょうか魔理沙」
 魔理沙が凄いじと目で見てくるけれど、再び無視して歩き出す。
 自分でもかなり苦しい言い訳だとは思うが、ここで魔理沙と無駄話をしている暇はない。
 今は一刻も早く、霊夢を見つけなければ……!
 そうして5分ほど歩くと、一つの洋服店が目に入った。
 魔理沙の話では、ここに霊夢とアリスが居るはずである。
「こ、ここに霊夢とアリスが居ますのね?」
「あぁ、霊夢がまずはここに行くって言ってたから間違いないぜ」
 魔理沙が頷くのを確認すると、私は周りに隠れる場所がないか見渡した。
 本当は今すぐ店の中に入って確認したいところだけれど、それでは誤魔化されてしまう可能性もある。
 自然な二人の様子を見れなければ意味がないのだから。
「じゃあ…そうですわね、あそこの茂みに隠れましょう。あそこからなら距離的にも店の中から見えないでしょうし」
 そう言って少し離れた場所にある、店の窓から直線状にある茂みを指差す。
「え〜? それじゃあ全然店の様子見えないじゃないか。めんどくさいから窓から直接覗こうぜ?」
「バカですわね。そんなことしたら鋭い霊夢のこと、すぐに見つかってしまいますわ。いいから今は隠れますわよ」
 魔理沙の意見を一蹴して、強制的に茂みの後ろに連れて行く。
 霊夢は勘が鋭いから、そんなところで覗いていたら即見つかるに決まっている。
 それに、こんなときのための道具は用意してある。
「ほら、これを使えばいいですわ」
 そう言ってスキマの中から望遠鏡を2本取り出す。
 これぐらいの距離なら、これを使えばばっちり中まで見えるはずだ。
「おっ、さんきゅ。…って、今スキマ使っちゃって良かったのか? 霊夢とかに気づかれないために、わざわざ使わないでいたのに」
「大きさも最小限に抑えましたし、使った時間も一瞬ですもの。さすがの霊夢もこの程度では気づきませんわよ」
 いくら霊夢やアリスだって、この一瞬の使用では気づかないとは思う。
 …だけど、万全を期すならこれも手持ちでもってくるべきだったし、普段の私ならそうしただろう。
 やはり魔理沙の言うとおり、今の自分は相当余裕がないらしい。
 本当に自分は霊夢の事となるととことん調子が狂うようだ。
「さて、そんなことより中の様子を確認してみましょう。無駄話していて霊夢たちを見失ったとあっては、お話になりませんわよ?」
「そうだな、どれどれ………おっ、いたぜアリスと霊夢っ」
「ほんとですのっ?」
 魔理沙の言葉に、私も慌てて望遠鏡を覗き込む。
 するとそこには、一緒に買い物を楽しむ霊夢とアリスがいた。
 ここからではもちろん声は聞こえないけれど、仲のよさそうな感じが見て取れる。
 どうやら霊夢がアリスの服を選んであげているところのようだ。
「うぅ…アリスあんなに楽しそうにして…。私と一緒に居るときだって、あんな顔しないのに…」
「た、確かにそうですわね…。霊夢も私と居るときにはあんな笑顔見せたことないですわ…」
 魔理沙の言うとおり、二人とも私達の前では見せたことのないような、楽しそうな表情をしている。
 こ、これはもしかして、ひょっとすると……。
「い、いいえ…まだ決まったわけではありませんわっ……! 二人はもともと仲がいいんですもの! 普段も一緒に居るときはあんな感じだったはず!」
「そ、そうだなっ! まだ決め付けるのは早いな!」
 私の一言に項垂れていた魔理沙も元気を取り戻す。
 そうだ。あの二人のことだから、あんなふうに仲良くしているのは当たり前なのだ。
 もしかしたら魔理沙の聞いた話は何かの間違いで、ただ単に二人で買い物に来ているだけかもしれない。
 そう信じて私は店の中に視線を戻した。
 今後さらに厳しい試練が待っていようとは知らずに―――





<あとがき>
 ゆかれいむ&マリアリ小説……のはずが、霊夢とアリス出てきてませんね(^^;)
 あと、少し長くなりそうなので二つに分けます。
 後編にはちゃんと出てくるんで安心してください^^
 最近はこの四人をセットで書くのが楽しすぎますw
 そして私の中では霊夢とアリスは親友の設定です。
 私が書くと、凄く仲良くなってしまうんですよこの二人w
 もちろんカプ的な意味ではなくて、あくまで友達としてですが。
 ゆかれいむとマリアリ前提で、霊夢とアリスを書くのが特に楽しすぎる^^






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