あけおめ
「明けましておめでとう霊夢」
「あ〜あけおめ…」
 新年の挨拶に来たらしい紫に、私は適当な返事を返す。
 本当ならば、新年最初の挨拶なのだから、もっときちんと返すべきなのだろうが、今はそんな気分にはなれない。
 なぜならば、今の私は不機嫌全開だからだ。
「あら、どうしたのかしら? 新年早々元気ないですわね」
「新年でめでたいって? そりゃ他のやつらはめでたいでしょうけど、私はぜんぜんめでたくないのよっ」
 そう、全然めでたくなんかない。
 なぜって? そんなの決まってる。
「どうしてかしら? なにか悪いことでもあったのかしら?」
「どうしても何も、ここは神社なのに、誰もお賽銭入れに来ないのよーーーっ!!」
 そう、私の不機嫌な理由はただひとつ。
 お賽銭箱が空っぽだからだ―――



「…少しは落ち着いたかしら?」
「えぇ、少しはね…」
 あれから紫からおすそ分けのおせち料理(藍特製)を食べさせてもらって、ある程度気持ちは落ち着いた。
 だけど、未だに気分は晴れはしない。
「もう、この神社にお賽銭がないことなんていつものことじゃない。そんなに取り乱すことはないんではなくて?」
「そりゃそうだけど、今はお正月なのよ。紫が言ってたんじゃない、外の世界では場所によりけりではあるけど、お正月はみんな初詣とかでいつもの何倍もお賽銭が入るもんだって」
 私も、普段ならお賽銭がないくらいでここまで取り乱したりはしない。
 認めたくはないが、うちの神社でお賽銭が入らないのなんて日常茶飯事だ。
 だが今はお正月。紫に聞いた話では、外の世界では初詣とかでどの神社も賑わい、お賽銭が飛び交うらしい。
 なのに、この幻想郷の住人ときたら、大賑わいどころかたったの一人もお賽銭を入れにこない。
 これを取り乱さずしてどうしろというのか。
「なによ…幻想郷の平和を守ってるのは私なのに、なんで少しも入れにこないのよ…。そんな大金入れろなんて言わないから…100円ぐらい入れに来なさいよ〜」
 あぁ、なんだか言ってて惨めになってきた。
 涙出てきそう…。
「もう、そんなにしょぼくれるものではないですわ」
「だって…神社なのにお賽銭がないなんて…。そのせいでお正月だって言うのに、さっき紫がおせち持ってきてくれるまでろくなもの食べてなかったし…」
 実は不機嫌だった理由はそこにもある。
 みんなお正月だって浮かれてるはずなのに、私はお金がないせいでまともな料理すら食べれていなかったからだ。
「はぁ、あなたがそんな状態では張り合いがありませんわ。……仕方ないですわね、私が入れて差し上げますわ」
「ふ〜ん、紫がお賽銭入れて……………って、ホントにッ!?」
 紫の予想外の言葉に飛び起きる。
 確かに言ったよねっ! 今確かに言ったよねっ!?
「ホントにホントねっ!? 今更嘘だなんて言わないわよねっ!?」
「言いませんわ。まったく、お賽銭が入るとなるとすぐ元気を取り戻すなんて、現金なんですから」
 私のあまりの切り替えの早さに、紫がため息をついているがそんなことは関係ない。
 なんせ、お賽銭が入るのだ!
 あの、最後に入ったのがいつか分からないような、おそらく幻想郷一寂しいであろう賽銭箱にお賽銭が!!
 これが浮かれずにいられるだろうかっ!
 とりあえず、紫の気が変わらないうちに早く入れさせなくちゃねっ。
「じゃあ行きましょう紫! お賽銭箱が私たちを待っているわっ!!」
「はいはい、急がなくても私は逃げませんわよ」
 そう言う呆れ顔の紫の背中を押して、私はお賽銭箱へと向かった。



「さぁ紫っ、豪快に入れちゃって!」
「…豪快なお賽銭の入れ方ってどんなやり方ですの?」
 ハイテンションな私に苦笑しながら、紫はぱっくりと開いた“隙間”に手を入れる。
 空中に開いたその細長い穴は紫の力で、ものの境界を弄くることによって今は、自分の家につなげているらしい。
 原理はよく分からないが、そうゆう能力ってことで納得している。
「…そういえば霊夢、ここの神社はちゃんとご利益はあるのかしら?」
「さぁね? たくさん入れればそれだけいいことがあるんじゃな〜い?」
 正直、うちの神社でお願いをしてなにかご利益があるかは私も分からない。
 なので、たくさん入れればそれだけご利益があるといっておく。
 まぁ、神社なんてそんなもんでしょ〜。
「ふ〜ん、まぁいいですわ。では…」
「そうそう、たくさん入れるのよ〜。―――って、ちょっと待ってっ!」
 紫が賽銭箱に入れようとしているものを見て、あわてて静止する。
 そっそ、それって……!
「あら?どうしたのかしら霊夢?急に止めたりなんかして」
「あ、あんた…それホントに自分のお金でしょうね?」
「失礼ですわね。私を魔理沙と一緒にしないでもらえるかしら」
「い、いや……だってそれ…」
 確かに紫が盗んだお金でお参りするとは思えないが、それでも疑いたくなるはずである。
 なんて紫が今もっているのは、もう最後に見たのか分からないくらい私に縁のない、お札だからだ。
 しかもお札の中でも一番価値の高い―――1万円札。
「どうしたんですの? 金額が大きければ大きいほどご利益があるといったのは霊夢ですわよ?」
「い、いや…確かにそうだけど…。あんたの願い、そんなに大事なやつなの?」
 そうだ。くだらない願いなんかにそんな大金賭けるはずがない。
 もしかしたら、紫にとってかなり大事な願いなのかも…。
「い、いいの? そんな大事なお願いうちの神社でしちゃって?」
「あら? お賽銭入れてほしいといったのは霊夢でしょ? それに、この願いをするならこの博麗神社が一番効き目がありそうですので」
「へ? 博麗神社が?」
 どういうことだろう?
 紫の願い事が、この神社で一番かないやすいなんて?
 もしかして、私の気づかないうちに妖怪にやさしい神様でも居ついたんだろうか?
 私が頭をクエスチョンマークだらけにしているうちに、紫はお札を賽銭箱に入れる。
 ほ、本当に入れちゃった……。
 そして鐘を鳴らすと手を合わせて目を閉じる。
「……霊夢と去年よりも仲良くなれますように」
「―――へ?」
 紫の言葉に、思考が一時停止する。
 私と仲良くって…えぇ!?
「ふふっ、ねぇ霊夢。この願いかなうかしらね」
「なっ、ななっ」
 あまりの予想外な願いに思わず赤面してしまう。
 な、なによその願いわっ。そ、それを私に言うなんて反則じゃないっ。
「ねぇどうなの? 博麗神社の巫女さん?」
「し、知らないわよっ。だいたいそんなこと言ってからかってるんでしょ?」
 そうだ、絶対そうに決まってるっ。
 そもそもそんな願い、本人に言うなんてあきらかに本気で言ってるなんて思えないし。
「そうね。まぁ少しはあなたの困った顔も見たいというのもあるわ」
「ほ、ほらっ、やっぱりそうじゃないっ。まったく紫はいつも―――」
「―――でもね、仲良くなりたい、もっと霊夢に心を開いて欲しいと言うのはホントよ。これは誓って嘘じゃない。私の心からの気持ちですわ」
 そう言う紫の表情は優しい笑顔だった。
 いつも私をからかうときのちょっと憎らしい顔じゃなくて、私に何か言い聞かせたり、慰めたりしてくれるときの柔らかい笑顔。
 そ、そんな顔で言うなんて卑怯よ…。
 なんにも反論できなくなっちゃうじゃない…。
「…ホントなの? また、本当は冗談でしたとか言うオチじゃないでしょうね?」
「えぇ、間違いありませんわ。私、霊夢にこのような大事なことで嘘をついたことは無いでしょう?」
 確かに私をからかうときなどに嘘をつくことはあっても、こういう真面目な場面で私に嘘をついたことは無い。
「……わかったわっ、信じるわよ…。そこまで紫が言うんだからホントなんでしょっ」
 気恥ずかしくてそっぽを向いてしまう。
 からかいとか冗談で似たようなことを言われたことはあるが、真剣にこんなことを言われるのは慣れていない。
 ……まぁ、ちょっと嬉しいけど…。
「さぁ、ここは寒いから中に入りましょう? …お賽銭入れてくれたし、少しいいお茶を入れてあげるわ」
 私は赤くなる顔を隠すように家のほうへと向かう。 
 これ以上ここにいると、逃げられなくなりそうだ。
「えぇ、そうしましょうか。 ところで霊夢、さっきの質問の答え、まだ聞いてませんわよ?」
 ちょっと悪戯っぽい笑顔を浮かべて、紫が追求してくる。
「さ、さぁね。まぁあなた次第なんじゃないのっ」
 そんな追求を逃れるため、私は早足で歩き始める。
 さっきの紫の質問の答え…。
 そんなの決まっている。
「……別に、仲良くなりたいって思ってるのはあんただけじゃないんだから……」






 <あとがき>
 書いているネタ的にわかるかと思いますが、だいぶ前に書いたやつです。
 私が書くと、かなりの確率で霊夢はツンデレになりますw
 それにしても、いくら霊夢のためとはいえお賽銭に1万円とは、ゆかりんも太っ腹ですなw





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