クリスマス
 灰色に曇った空からはらはらと雪が降り続く。
 そんな光景を窓から眺めていた。
 なぜ窓からかというと、もちろんこんな雪模様の寒い中、外になんて出られないからだ。
「こんな日は、やっぱりコタツで蜜柑にかぎるわよね〜」
 そういいつつ、蜜柑を1粒口に放り込む。
「はぁ、だらけきってますわね〜…」
「同じくコタツに入ってるあなたに言われたくないわよ」
 目の前からくる非難染みたため息の主をにらみつける。
 こちらが特に許したわけでもないのに、また新たな蜜柑をむき始める。
 ちなみにこれで三つ目だ。
「まったく、いつも突然あらわれてなんか食べていくんだから…。今日も特に用事なんてないんでしょ?」
「いえ、そんなことはありませんわ。今日は霊夢に1つ、いいことを教えて差し上げようと思いまして」
「へ? いいこと?」
 お茶をすすりながらそんな事を言う紫の言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。
 …でもよく考えれば、紫が素直にいいことなんて教えるわけがない。期待するだけ無駄な気もする。
「くすっ、あなたが考えていることが手に取るようにわかりますわ。私が霊夢に素直にいいことを教えるはずがない―――そう考えているのでしょう?」
「ぐっ、そ、そうだけど…あなたのいつもの行いからして、そう思うのが普通じゃないっ」
 考えを見透かされたのが悔しくて、つい声を大きくしてしまう。
「あら、だったらだらけきってると言われてしまっても言い訳できませんわね」
「ぐっ、い…いつ私が怠けたって言うのよ」
 痛いところをつかれるも、なんとか反論してみる。
 でも結果は―――
「くすっ、いつも神社でダラダラすごして、異変が起きても誰かに言われるか、自分に不利益がこうむらない限り何もしない人はどなたでしたかしら?」
「む、む〜…」
 ―――惨敗だった。
「と、とにかくもったいぶらないで、何言いに来たのか教えなさいよっ!」
「あら、逃げられてしまいましたか。まぁいいでしょう。霊夢、あなたは外の世界にクリスマスという行事があるのをご存知かしら?」
「クリス…マス? ちょっと聞いたことないけど…」
 なんのことだろう?聞き覚えがない言葉だ。
 まぁ外の行事なんてわかるはずもないか。
「今月の24日の夜から25日にかけて行われる行事で、元はその世界の神様が生まれたのを祝う―――だったらしいのですけど、今では家族や友人、恋人同士でご馳走を食べたり、プレゼントを渡したりするみたいですわ」
「へ〜、そんな行事があるのね」
 なんだか楽しそうな行事だ。
 みんなで集まるだけなら、いつもやってる宴会と変わらないけど、プレゼントを渡すというのは面白そうだ。
「でも…どうして急にそんなこと伝えにきたのよ?」
 確かに面白そうな行事だが、なぜ今日になって伝えにきたのだろう?
 今日の日にちは12月10日。クリスマスまで2週間もある。
 早めに分かるのは悪いことではないかもしれないが、それにしてもちょっと早すぎる気も…。
「あら、このぐらい早くしないと間に合いませんもの」
「え? 間に合うって、何に間に合うのよ? 宴会の準備とかだったら2日くらい前からでも…」
「違いますわ。私へ渡すプレゼントの準備ですわ」
「は? プ、プレゼント?」
 紫の思いもしない言葉に驚いてしまう。
 プレゼントを渡したりするのは面白そうだと思ったが、それを自分が要求されるとは思わなかった。
「安心しなさい。なにもあなただけからもらおうとは思わないわ。私もちゃんとあなたへのプレゼントを用意しますから」
「へ? そうなの?」
 てっきり紫はクリスマスに託けて、私からだけプレゼントと称してなにかを強奪していくのかと思った。
 でもそれは違うらしい。
「えぇ、ただ一度やってみたくなりまして。プレゼント交換がどんなものか……ね」
 そう言ってクスリと微笑を浮かべる。
 うぅ、なんか嫌な予感しかしないんですけど……。
「それに霊夢なら、きっと私よりもずっと素晴らしいプレゼントを用意してくれるのでしょう?」
「はっ? ちょ、ちょっとなに言って…」
 紫の突拍子も無い言葉に、またしても不意を突かれる。
 こ、これはもしかして…。
「ふふっ、楽しみですわ。霊夢がいったいどんなプレゼントをくれるのか」
「も、もしかしてそれが狙いっ!?」
 やっぱり思ったとおりのようだ。
 紫は私のことを、この行事を使ってからかおうとしているに違いない!
「なんのことかしら? 私は、霊夢は私がいいプレゼントをすれば、それを超える素晴らしいプレゼントを贈ってくれると信じているだけですわよ?」
「な、ちょっ…ちょっと待っ―――」
「くすっ、ではその日を楽しみにしていますわね」
 私が弁解する隙も与えず、紫はいつものように隙間の向こうへ消えていった。
 は、はめられた……っ!
「だーっ!! いったいどうすりゃいいのよーっ!!」
 特別な特技があるわけでもないし、お金もまるでないし、どう考えても紫より素晴らしいものが用意できるとは思えない。
 でももし用意できなかったら、散々そのネタでからかわれるに違いないだろう。
「こ…これは、できるだけいい物を用意するしかないわね…」
 たとえ紫の用意したものに敵わなくても、できるだけ差を埋めなければならないと思う。
 そうしなければ絶対、壮絶にからかわれることになるだろう。
 ……それに、一応プレゼントをくれるのだから、こちらもお返しぐらいしなければ。
「べ、べつに紫になにかプレゼントしたいわけじゃないけど、やっぱりそういうのもらっといてこっちがなにも渡さないわけにはいかないわよねっ」
 そんな誰にか分からない言い訳を口にしながら、私は外へと向かった。
 正直、こんな寒い中外に出たくなんて無いが、そんなことも言ってられない。
「まずは、どんなプレゼントがいいのか調べなくちゃね―――」



「―――失礼するわね〜っと」
 大きなドアを押し開け中に入ると、相変わらずの大量の本と、そのなかに座っている少女が目に入った。
「あら…珍しいわね。あなたがこんなところ来るなんて」
「まぁね、調べものならここかなと思って」
 私に気づくと、チラッと視線だけよこして少女―――パチュリーは口を開いた。
 だけど私のほうを見たのも一瞬で、すぐに本へと視線を戻してしまう。
 その反応は分かりきっているので、私も返事だけして周りの本を見わたす。
 私は今、紅魔館にある図書館に来ていた。
 とりあえず、クリスマスにはどういうものを贈るのか分からなかったので、調べに来たのだ。
 ここならとりあえず、どんな資料でもありそうだし。
「ねぇパチュリー、ここに外の世界にある行事の“クリスマス”について書いた本ってあるかしら?」
「クリスマス? あぁ、それならそこの本棚の下から3つ目の段にあるわ」
「おぉ、さすがね。ありがとう」
 言われた通りの棚を調べると、確かにクリスマスについて書かれた本が並んでいた。
 さて、プレゼントに関する本はっと…。
「あぁ、あったあった。なになに………ほう、なるほど」
 いろいろな内容が書いてあり、その中でも恋人に対するものが圧倒的に多いようだ。
 見た感じ高そうな種類のものもあるが、それは却下。
 とてもそんなお金は無い。
「う〜ん……心のこもった手作り? これならお金はかからないけど……」
 ただ、私なんかが作ったもので、紫のプレゼントを超えられるとは思えない。
 そもそも、一人暮らしをしているせいで家事全般はそこそこ出来るが、人にプレゼントするものなんて作ったことが無いのだ。
「ちょっと決めかねるわね。…ねぇパチュリー。この辺の本何冊か、借りてっても良いかしら?」
 駄目元で聞いてみる。魔理沙の言うことがホントなら、簡単には貸してくれな―――
「いいわよ。そのかわりちゃんと返してね」
「へ? いいの? 魔理沙が言うには、本を借りようとすると弾幕ぶっ放されるって…」
「…あいつは借りてくと言いながら盗っていくんだもの。今まで持っていった本で、戻ってきたものなんてないんだから…」
 そう言い終わると、パチュリーはブツブツと何かを呟いている。
 なにを言っているのかは聞こえないけど、突いて蛇がでられてはたまったものではない。
 彼女の気が変わらないうちに退散しよう。
「じゃあ借りてくわね。クリスマスが終わったら返しに来るわ」
 言って、私は扉に手をかける。
「そういえばあなた、よくすんなりここまで来れたわね? 美鈴と咲夜はなにしてたのかしら」
 外に出ようとした私に、パチュリーが思い出したように問いかけてくる。
「あぁ、美鈴なら寒そうにしてたから、焼き芋を何本かあげたらすんなり通してくれたし、咲夜はそのことと、あることないこと少し付け加えたら、私を無視して外に向かって行ったわよ?」
 こんなときのために、美鈴対策の焼き芋を持ってきておいたのだ。
 こんな寒い日に外で門番をしていれば、簡単に食いつくと思ったけど、案の定だった。
「……あなた、さりげなくエグイわね…」
「あら、頭がいいと言って欲しいわね〜。お互い無傷ですんだんだし」
「1人明らかに無傷ですんでなさそうな人が居るけど…まぁ、いいわ。いつものことだし」
「えぇ、それじゃ外のほうの騒ぎもそろそろ収まるだろうし、そろそろ帰るわね」
 そうして、今度こそ紅魔館をあとにする。
 尊い犠牲のためにも、帰りも無事に帰るとしよう。



「うぅ〜、難しい……」
 私はそう呟きながら、頭を抱える。
 今日の日にちは12月19日。クリスマスまで1週間を切っていた。
 結局借りてきた本を読んだ結果、予算の都合上手作りのものにすることに決定し、それを作っているのだけど―――
「だ〜っ! なんでこんなに難しいのよっ!」
 作ろうとしているものの難解さにまいり、大の字に寝転ぶ。
 読んだ本の中で、定番である手作りと紹介されていたので作ってみているが、かなり厳しい。
 それに、仮にこれが出来たとして、紫のプレゼントに勝てるかと言うと甚だ疑問だ。
 だいたい、勝負云々の前にこんなものでよろこんでくれるだろうか?
 ……厳しい気がする。完璧に出来れば話は別かもしれないが、この程度の出来ではまず無理だろう。
「そう考えると、止めたくなってきた…」
 かといって、今になって他のことに切り替えるわけにも行かない。
 なにも用意しないことも考えたが、もらっておきながらなにも返さないのは、さすがに悪い気がする。
「はぁ、仕方ない…。続けるか」
 悩んでいても仕方ない。悩んでいる暇があるなら手を動かさなければ。
 そう言い聞かせ、体を起こし作業に戻る。
「あら、なにをつくってますの?」
「わぁっ、紫っ!? あ、あんたいつの間にっ!?」
 私は慌てて作りかけのプレゼントをコタツに突っ込む。
 今の状態なんてあまりにも中途半端すぎて、見せられたものではない。
「そんな隠さなくてもよろしいですのに。 誰も盗み見たりなんかいたしませんわよ?」
「ほ、ホントに? 実は隠れてみてたんじゃないの?」
 こいつは本当に神出鬼没で困る。
 今まで紫がまともに訪ねてきたことなんて一度も無いし。
「そんなことしませんわ。霊夢がなにを私にプレゼントしてくれるのかは、当日までのお楽しみにしておきます」
「うぅ…そんなこと言われても大したもんじゃ―――」
「きっと霊夢のことですから、素晴らしいプレゼントを用意してくれているんでしょう?」
 こ、これはプレッシャーだ。
 というか、明らかにからかわれている気がする…。
 絶対私が紫よりすごいものを用意できないのをわかってて、からかっているに違いない…!
「じ、じゃあ今日は何しに来たのよ?」
「いえ、ちゃんと霊夢が用意してくれてるかなと少し見にきたのですわ」
「と、当然じゃないっ。一応約束だからねっ。ちゃんとやってるわよ」
 …危なかった。
 つい投げ出しそうになっていたが、耐えていて正解だ。
 結局その日紫は、本当に私の様子を見に来ただけのようで、いつものように過ごした後『それではまた24日に』といって去っていった。
 さて、本当にどうしたものかな……。
 



「はぁ、ついにきてしまった……」
 鉛のように重いため息が口から漏れる。
 今日は12月24日―――つまり外の世界で言うクリスマスイブというやつだ。
 同時に私の決戦日でもある。
 あれから結局、なんとか完成にはこぎつけたが、如何せん出来が悪すぎた。
 これでは勝負をする前から負けているようなものだと思う。
「しかもまずいことに、今日の料理は全部紫からなのよね〜…」
 ただでさえ分が悪いのに、今日のパーティで食べる料理はすべて彼女が持ってきたものだ。
 昨日いつものごとく突然現れて、『明日の料理は私が用意しますわ』と、それだけ告げて去っていかれたのだ。
 これで大したものでなければいいのだけど、そんなことはなく、逆に私が用意しようとしていたものよりもはるかに豪華だったりする。
 もし料理とかをこっちで用意すればまだ逃げ道はあったかもしれないが、これで完全に避けれなくなってしまった。
「まぁでも、一応気持ちは…込めたつもりだし」
 最初は紫のプレゼントに負けないようにと作っていたが、作っている間に紫が喜んでくれるかどうかのほうが心配になってきたのだ。
 紫は確かに突然現れたて迷惑とかかけられたりするけど、でも知り合いの中では仲のいいほうだと思うし、好きか嫌いかで言ったら…好きな部類に入ると思う。
 だから、今まできちんとしたプレゼントなんてしたこともなかったし、この機会に心を込めて作ってみたのだ。
「だから、出来はちょっとあれだけど……達成感はあるかな」
 そう呟きながら、作り終えたそれを袋に入れる。
 一応袋も人間の里で、綺麗そうなのを選んできた。
 包装を多少まともにすれば、多少はまともになるかと思ったが、所詮気休めにしかならない。
「霊夢〜っ! 出来ましたわよ〜」
 紫の呼ぶ声が聞こえる。
 どうやら準備が終わったらしい。
「うん、今行くわっ」
 返事をして居間へと向かう。
 さて、あとはどうあがいても渡すしかない。
 私は1つ深呼吸をすると、プレゼントを胸に抱えて居間へと向かった。



「さて、さっそくプレゼントを交換しましょうか」
「ちょっと待てーっ! 第一声がそれかいっ! 普通乾杯とか料理食べたりとかした後に渡すもんでしょっ!?」
 紫のいきなりの提案に思わず声を大きくしてしまう。
「あら、よく知ってますわね? 私も出来るならそうしたいのですけど、あんまりもたもたしていると、いつもの調子で邪魔が入りそうなので」
「邪魔って……そういえば、こういうときには自然と皆集まるものなのに、今日は珍しく私とあなただけね?」
 いつもならば、宴会なんてすると呼んでもいないのに、どこからともなく人が集まってくるのだが、今日は私と紫の2人だけだ。
 いったいどうしたんだろう?
「あぁ、それなら萃香とちょっと勝負に勝ちまして、人払いをお願いしているのですわ」
「な、なるほど…」
 まさかそこまで手が打ってあるとは…。
 本当に逃げ場はなさそうだ。……って、もう逃げないって決めたのに菜に考えてるんだ私はっ。
「さて、ではさっそく私からお渡ししますわね。はい霊夢、メリークリスマスですわ」
 そう言って手渡されたのは、意外にも小さな封筒でちょっと面食らってしまう。
 いったい何が入っているんだろう?
「いろいろ考えたのですけど、あなたが一番必要だと思うものにしましたわ」
「私が一番必要そうなもの?」
 頭にハテナマークを浮かべながら、封を開けてみる。
 そして中身を見た瞬間―――思考が停止した。
 そこには全体的に茶色めで長方形の紙が入っていた。
 その紙には頭のよさそうな男の絵が描いてあって、端っこに数字がついている。
 数字を数えてみると1が1つと0が4つで1万だ。
 そんな紙が5枚入っている。
 …………………………って―――
「これお金じゃんッ!? しかも1万円札が5枚もッ!!?」
 やっと思考が動き出し、中身を再認識して絶句した。
 い、1万円札っ。しかも5枚もなんてっ……!
 今まで持ったことも無いような大金に、思わず手が震えてしまう。
「言ったでしょう? 霊夢に必要なものだって。あなたはいつも賽銭がまるで入らないと嘆いていましたからね」
「で、でもこんなに…」
「私からの気持ちですわ。気にせず受け取りなさい」
 …これではまるで敵わない。
 私の贈り物なんて、この100分の1の価値もないだろう。
 そう思うと、一度封じ込めたはずの恥ずかしさや逃げたい気持ちがこみ上げてくる。
「やっぱりさ、その…私のプレゼントなんて受け取らないほうが…」
「そんなことありませんわ。だって私、とっても楽しみにしていましたもの」
 “楽しみにしていた”その言葉に胸が苦しくなる。
 それなのに自分は、この程度の―――価値もあるかどうか分からないものしか用意できなかったのだから。
「だ、だけど…」
「恥ずかしがることはありませんわ。さぁ、みせてちょうだい」
「う、うん……」
 紫に促され、持っていたプレゼントを渡す。
 正直そのまま逃げてしまいたいけど、それはできない。
 こんなものしか用意できなかったのだから、せめて逃げたりしないようにしないと。
 紫の手が袋の中に入り、それが取り出される。
 本当は一瞬のはずなのに、まるで咲夜が隠れて能力を使っているんじゃないかと思うくらい、とてつもなく長い時間に感じた。
「これは……マフラー?」
「え、えぇ…その、パチュリーから借りた本に作り方が載ってたから……」
「霊夢の手作りですの?」
「うん、そのせいで出来は悪いけど……ね」
 紫はかなり面食らった顔をしていた。
 それはそうだ。自分はあんなに価値のあるものを贈ったのに、お返しがこの程度のものなんだから。
 そんな自分の力が恥ずかしくて、つい下を向いてしまう。
 こんなんじゃ、とてもじゃないけど紫に喜んでもらえるわけが無い。
 きっと紫もがっかりして―――
「…霊夢、とっても嬉しいですわ。ありがとう」
 ―――えっ?
「い、今なんて……?」
 あまりに予想外な紫の言葉に顔を上げる。
「ありがとう、といったのですわ。とっても素敵なプレゼントで、びっくりしてしまいましたけど」
「そ、そんなわけないじゃないっ。そんな出来の悪いマフラーなんて―――」
「―――いいえ、すごく素敵ですわ、霊夢。確かにお店とかで売っているものよりも形は悪いかもしれませんが、そんなの気にならないくらい―――いえ、それがかえって霊夢の心がこもっている証になるのですわ」
「で、でも……」
 私は思わず言葉をなくしてしまう。
 てっきりあきれられて文句の一つも言われるかと思ったのに、喜ばれるなんて……。
 一瞬うそかと思ったけど、紫の笑顔を見れば分かる。
 あれは心のそこから喜んでくれている笑顔だ。
 でもなんで……。
 そう疑問を抱えていると、紫が少し自嘲的に笑った。
「私が愚かでしたわ。まさかこんなに長く生きていて、あなたから教えられることになるなんてね……」
「え? なんのこと?」
 紫の言葉に、首を傾げる。
 私が紫に教えたことなんてあったっけ?
「プレゼントの価値は、直接的な価値、特に現金などで考えては駄目と言うことですわ。様々な書物に書いてはありますけれど、実際にもらってみて、はっきりと感じました。やはり贈り物とは価値よりも気持ち―――より心のこもったものが、その人にとって一番の価値にあるものになるのですね」
 言って、紫は柔らかく笑った。
 その笑顔がとっても嬉しそうで、私もつられて笑顔になる。
 紫は時々私では理解できないような、難しい言葉遣いをするけれど、今行っていることは理解できるし、同意できる気がする。
 やっぱり相手のことを思って作られたものの方が、どんな価値のあるものよりももらって嬉しいものなのかもしれない。
「でもさ、紫も私のために料理まで用意してくれたじゃない。それはさ、その、嬉しいわよ」
「ふふっ、ありがとう霊夢。なんだか今日はあなたに負けっぱなしのようですわね」
「へ? 私がいつ勝ったのよ?」
 明らかに、私の方が負け越しなきもするんだけど・・・。
「さぁ、せっかく用意した料理が冷めないうちにいただきましょう」
「そうね、さぁ〜食べるぞーっ!」
 柄にもなく心配しすぎたせいでおなかも空いたことだし、沢山食べるとしよう。
 そんなふうに意気込んだら、紫にまるで魔理沙みたいだと笑われてしまった。
 むぅ、そこまでにていただろうか?



 結局そのあと他の皆がやってくることはなく、二人のクリスマスパーティが続いた。
 やってることはいつもの宴会と大して変わらないんだけど、少し紫との距離が近くなった気もする。
 そうして騒いでいるうちに私は、いつの間にか寝てしまい起きたら朝だった。
 気づいたときにはすでに紫はいなく、食器は綺麗に片付けられた後で。
 テーブルの上に『今日は楽しかったですわ。ありがとう霊夢』と書かれた紙が残されていたりする。
 どうやら片づけまで任せてしまったようだ。
 その後に紫にあったのは意外にも早く年越しのときで、てっきり春まで冬眠してイルノ化と思ったが、今年はそうでもないらしい。
 それからもたまに冬の間でも姿を見せるようになったのだが、そのときは必ず、私のあげたマフラーを巻いてくれていた。
 ふと気になり、なぜ今年は冬も出てくるのかと聞くと、
「今年からは、冬も外出しなければならない理由が出来たからですわ」
 と、意味ありげに微笑まれた。
 う〜ん、どういう意味だろう…?
 やっぱり、私は紫のことを完全には理解できていないようだ。
 それでも、今回のことで紫との仲は、より深くなった気がする。

 そんな、冬の日の出来事だった―――




 <あとがき>
 だいぶ前にコピー本に載せるために書いた小説です。
 ゆかれいむと言えるかどうか怪しいぐらい、ほのぼの小説になってますw
 確か、女の子同士のカプを書くのはこの小説が初めてだった気がするので
 勘弁してやってください(^^;)






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