素直な霊夢?
 穏やかな日差しが降り注ぐ昼下がり。
 私―――八雲紫は、博麗神社の縁側にいた。
 当然ここに来た理由は、この神社の巫女である霊夢に会うためだ。
 会うため、だったのだが―――
「ねぇ霊夢、一つ聞きたいのですけど…」
 私は今の状況に抱いた疑問を、そのまま本人にぶつけることにする。
「…なに、紫」
 現在私を悩ませている張本人、霊夢の声が私の真下からする。
 真下から、というのはそのままの意味であり、それが私を悩ませている原因なのだ。
「私はなにか特別なことをした覚えもないのですけれど、どうしてこんな珍しすぎる状況になっているんですの?」
「なにが珍しいのよ? 紫が家に遊びに来るのなんていつものことでしょ?」
「いえ、それではなくて…。私が霊夢に膝枕をしてあげている状況が、ですわ」
 そう、私を悩ませている状況とは、私が霊夢に膝枕をしてあげている…というより、させられている状況なのだ。
 私はいつもどおりに遊びに来て、普通に縁側に座ったのだが、そこでいきなり膝へ頭を乗せてきて、今に到る。
「…紫は嫌なの? こういうことするの…」
「いえ、特に嫌ではないですけれど…」
 嫌なわけはない。
 というかむしろ、普段素直になってくれない霊夢がこんな風に甘えてくれるなんて、かなり嬉しかったりする。
 だけど私が悩んでいるのは、なぜ突然霊夢がこんなことをしているかだ。
 大抵こんなとき霊夢は―――
「霊夢、なにか悩み事でもあるんですの?」
「………別に、悩みって程じゃないわよ…」
 ―――何か悩みを抱えているのだ。
 やっぱり、そうでしたのね…。
 私は心の中でため息を付く。
 霊夢は修行もろくにしないで、私達妖怪と互角に渡り合うくせに、こういうことは不器用である。
 素直に、だれでも良いから打ち明ければいいものなのに。
 まぁ、そんなところも可愛いのですけれど。
「そう言ってないで、私に話してみなさい。溜め込んでおくのは毒ですわよ?」
 溜め込んでいるものを話してくれるように促す。
 自分の声が、いつのまにか優しくなっているのは、気のせいではないだろう。
 それだけ霊夢は、可愛がりたくなってしまうのだから。
「………紫…………じゃ…い」
「え? なんですの?」
 ボソッと呟く霊夢の声があまりにも小さくて、私は聞き返す。
 そんなに打ち明けにくいことなのかしら?
「…紫、この前幽々子と仲よさそうにしてたわよね?」
「えっ? それは幽々子とは昔からの知り合いですもの、当然ですわよ」
 はて、なぜ霊夢はいきなり、幽々子とのことを持ち出してきたのだろうか?
 彼女と私の仲がいいことなんて、霊夢だって知っていることのはずですけど。
「それにその前は萃香と楽しそうに話してたし、昨日は妖夢とずっと一緒に居たわ」
「……もしかして霊夢…あなた」
 普段からは想像できない霊夢の言葉に、少し呆気に取られる。
 まさかあの霊夢が、ここまであからさまに―――嫉妬、してる?
 一通りしゃべり終わると、霊夢は体を起こして私の少し前に座り込む。
 気まずそうに視線を床に落とすその頬は、ほんのりと赤みを帯びていた。
「…紫、私のことが一番可愛いって、言ったじゃない…。それなのに他の子とばっかり仲良くして…。
あの言葉は、嘘だったわけ……?」
 ―――なんなんですの、これは……?
 私は夢でも見ているのでしょうか。
 霊夢が、あの素直じゃない霊夢が………私に、嫉妬してくれている?
 そのあまりにも特異すぎる行動に混乱していると、霊夢はチラッとこちらを見た後少しの間黙ってしまう。
 そして意を決したように、自分の袖をぎゅっと握ると、赤い頬をさらに赤らめて呟いた。
「………もっと、私のこと…………かまってよっ」
 …その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがはじけた。
 ―――……か…か、かか……かかか、
「可愛いですわ霊夢ーーーーーーっっ!!!」
「わぁっ!? ちょ、なにすんのよ紫っ!?」
 気がついたら霊夢に抱きついていた。
 それは当然過ぎる行為。まさに宇宙の真理だろう。
 なんせあの霊夢が、可愛いといっても冗談だろうと突っぱね、抱きしめても振りほどき、
褒めたとしても素直に受け取らないあの霊夢がっ。
 ここまで素直に自分の気持ちを伝えてきたことがあっただろうか?
 いや、一度だってなかったっ。
 それがこんな可愛いことを、しかも可愛い表情可愛い行動をしながら伝えてきたのだっ。
 それで抱きつかないで平静を保っているなんて、いくらこの八雲紫でも出来るわけがないっ。
 そもそも―――
「い、痛いってば紫っ!」
「えっ? あ……あぁ、ごめんなさい霊夢。つい力を入れすぎてしまいましたわ」
 霊夢の言葉ではっと我に返り、抱きしめる力を弱める。
 どうやら霊夢のあまりの可愛さに、我を忘れていたようだ。
「もう、ビックリしたわよ。紫ったら、いきなり抱きしめてくるんだもの…」
「申し訳ないですわ。私としたことが、あまりの霊夢の可愛さに取り乱してしまいましたわ」
 本当にあそこまで取り乱したのは何年ぶりだろう。
 博麗霊夢おそるべしですわ…!
「……その言葉、本当でしょうね?」
「もう、これだけ私の心をかき乱しておきながら、何を言ってるんですの? 霊夢はとても可愛いですわ。
私が保障しますわよ」
 いまだに私の言葉を疑う霊夢に、はっきりと断言する。
 まったく、霊夢はいつも自信満々なくせに、こういうことになると急にしぼんでしまうんですから…。
「そっか……なら、その……他の子より、私のこと―――」
「―――大丈夫ですわその先は言わなくても。ふふっ、あんな可愛い頼まれ方したんですもの、
頷かないはずありませんわ」
 少し恥ずかしそうに口を開く霊夢の言葉をさえぎり、答えを告げる。
 その先が分からないほど私はバカではないし、あんな頼まれ方をされれば十分と言うものだ。
 するとその言葉に安心したのか、霊夢は柔らかい笑顔を浮かべて、こちらに体重を預けてくる。
 そして私に聞こえるような小さい声で、
「……紫、えっと…ありがと」
 なんて、愛らしく呟いた。
「え、えぇ…どういたしまして」
 その愛くるしさに、あやうく平静が崩れそうになるのを持ちこたえる。
 な、なんなんですの? 今日の霊夢は。
 いくらなんでも素直すぎません?
「ねぇ霊夢? 今日のあなた随分素直ですけど、どんな心境の変化ですの?」
 私は思い切って、思っていたことを聞いてみる。
 もしかしたら、まだなにか心配事があったりするんじゃないだろうか?
「それはえっと……笑わないで聞いてよ?」
「えぇ、大丈夫ですわ」
「その……アリスに『今日は素直になって気持ちを打ち明けとかないと、絶対に後悔する出来事が起こる』って、
占いで出てたっていわれて…」
「あら、霊夢占いとか信じるんですの?」
 予想外の答えに、思わず聞き返してしまう。
 普段の霊夢から想像するに、あんまり占いとかは信じなさそうなイメージですけど。
「わ、悪いっ? 私だって女の子なんだから、占いが気になったりもするのよっ」
「いえ、悪くなんてないですわ。それに霊夢が占いを信じたおかげで、こうして上手くいったわけですから」
 というか、その占いのおかげで霊夢が素直になってくれたのだから、アリスには感謝しなくてはならない。
 …柄じゃないですけれど、私も今度アリスに占ってもらおうかしら?
「…そうね、やっぱりアリスの占いって当たるのかしら? 今度会ったら、また見てもらおうかな…」
「私とのことをですの?」
「なっ! 何言ってんのよっ! そんなわけ―――」
「あらあら、いいのかしら? 今日は素直にならなくちゃいけないのでしょう?」
 その言葉に、霊夢はうぐっと言葉を詰まらせる。
「ほら、言いにくくなる前に言ってしまいなさい。生憎今日はしっかり捕まえてるから、ちゃんと答えるまで逃がしませんわよ?」
「そ、そんなの卑怯よっ!」
 そんな宣告に、霊夢は非難しながらジタバタと暴れるが、私は聞く耳持たないし、離したりするわけもない。
 そうするとやがてあきらめたのか、恨めしそうな視線をこちらに向けながら、答えを言葉にする。
「……そ、そうよ…。紫との相性とか、どうやったら仲良くなれるかとか、将来のこととかよっ!」
「ふふっ、それは嬉しいですわね。結果が出たら、私にも教えてくださいな」
「うぅ…こんなことして、次にあったときはただじゃ置かないんだからっ…!」
 耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている霊夢をよそに、私は心の中でほくそ笑む。
 霊夢がこれほど素直になるなんて、アリスは本当に素晴らしい結果を出してくれたものである。
 こんなチャンスは滅多にありませんし、今日は思う存分霊夢をからかうとしますか―――

 結局その日は、日が暮れるまで散々霊夢をからかった後、帰途に着いた。
 ちなみに後日アリスに、霊夢には内緒にするという約束聞いたのだけど、実はあの占いの結果は、
なかなか素直になれなくて悩んでいた霊夢の背中を押すためについた嘘だったらしい。
 結果的にからかいのネタにしてしまったけど、気の聞いた気転を利かせてくれたアリスには感謝しなくてはならない。
 そうでなければ、霊夢はきっと、今だ悩んだままだっただろうから。
 そうね。今度、白黒の服を着た人間の魔法使いでも手土産に、お礼をしにいくことにしましょう―――




<あとがき>
 ちょっとでれいむなゆかれいむです。
 なんだか最後にはいつもの調子に戻っちゃいましたがw
 あと、ちょっと途中でゆかりんのキャラが壊れちゃってますが、お許しください(^^;)
 今度はずっとデレ状態の霊夢とゆかりんで書こうかな?
 てか、結局今回もほのぼのになってしまった…(−_−;)
 ちなみにこのあと白黒魔法使いさんは、藍様に捕まってアリスに献上されますw






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