「ふぅ、なんなのよ…。また今日も来ないって言うの…?」
縁側に足を投げ出し、一人ため息をつく。
視線を落とすと、そこには冷めたお茶とお菓子が二人分。
「……ったく、来たときに用意してないと文句言うくせに、こうやって準備してるときに限って来ないんだから…」
そう愚痴をこぼしながら、空をにらみつけた。
別に空が憎いわけではないのだが、こっちがこんなに沈んだ気分なのにいい天気で居られると無性に腹が立ってくる。
天気が悪かったら悪かったで腹が立つだろうが。
「これも全部紫のせいよ…」
私がこんなにもイライラしているのは、紫のせいなのだ。
紫が来ると思って、せっかくお茶の用意をして置いたのにまるで現れる気配が無い。
最近は毎日、だいたいこのぐらいの時間に顔を見せていたから、今日だってそうだと思ったのに…。
「一日ぐらいならあきらめもつくのに、もう何日来てないと思ってんのよ。一週間よ一週間っ。
急にそれだけの間来なくなるなんて何考えてんのかしら」
そう、別に一日や二日ならなにか用事があったんだと割り切るが、あれだけ頻繁に来ていたのがここ一週間、ピタッと姿を見なくなったのだ。
その前は鬱陶しいくらい来ていたから今日は来るだろうと毎日準備を繰り返し、そのたびに紫の分のお菓子とお茶を無駄にし続けて、
結局一週間過ぎてしまった。
今までいきなり現れてお茶をよこせと言うから、来る時間に合わせて準備をして待っていれば今度は姿を現さない。
これでは腹も立つというものである。
「でも、ホントにどうしたのかしら? 今までも、ここまで顔見せないことなんて無かったんだけど…」
今までも毎日とはいかないまでも、三日に一度は遊びに来ていたのにどうしたのだろう?
冬なら冬眠していると言うこともあるだろうが、今は秋なのでそれはありえない。
「……まさか紫に限って何かあったとも思えないし…」
そんな考えが頭をよぎる。
まぁ、幻想郷でもかなり上な部類に入る紫に限って、そんなことはありえないと思うが。
……でも、これだけ音沙汰なしと言うことはまさか…。
「ふ、ふんっ! なんで私が紫の心配なんかしてやらなきゃ無いのよっ! あんなやつ、あんなやつ……」
そんなことを言いながら、声はどんどん小さくなっていく。
本当は分かっている。
私は紫のことが心配なのだ。
確かに彼女は幻想郷でも指折りの妖怪だし、まず心配するような事態にはならないだろう。
でも、紫だって完璧ではない。
もしかしたらということが、万に一つも無いとは言い切れない。
そう考えると、一緒に居るときの憎まれ口や、さっきの苛立ちが消えていく。
「はぁ…探しにいこうかな…。紫のこと」
「―――あら、私がどうかしましたの?」
「どうかしたってそりゃ―――って、わぁぁぁあああっ!!?」
声のしたほうを振り向き、思わず驚き飛び上がりそうになる。
そこにいたのは、今まで頭の中を占めていた人物―――紫だった。
「ふふっ、珍しく驚いてくれましたわね。最近は全然驚いてくれなくてつまらなかったところですわ」
一週間も現れなかったくせして、紫はいつものように話しかけてくる。
なんなのよっ、こっちはさっきまで割と心配してたのにっ。
「なっ、なに突然現れたくせして普通に振舞ってるのよっ。だいたいあんた今までなにやって…」
「あら、もしかして私が会いに来なくて寂しかったんですの?」
「バ、バカっ! そんなわけないじゃないっ! 邪魔が入らなくて清々してたところよ!」
つい本人を目の前にしてしまうと、口から出てくる言葉は本心の裏返し。
たまには素直にならなくちゃと思うんだけど、いざとなると出来なくて。
これが性格なのだが、そんな自分にももどかしさを感じる。
「私は寂しかったですわよ? ここ一週間霊夢に会えなくて」
「な、なに言ってんのよ……バカ」
こんな素直じゃない私の言葉にも、紫は笑顔で返してくれる。
そんな優しさに甘えているのもあるかもしれない。
でも私に会えなくて寂しいっていうなら、どうして……?
「だったらなんで、一週間も姿見せなかったのよ?」
そんな言葉が自然と口を突いて出た。
それは本心から気になっていた。
本当に紫が私と会えなくて寂しいと感じていたのなら、なんで一週間もまったく音沙汰がなかったのだろうか?
それとも寂しかったと言うのは社交辞令みたいなもので、ホントはただ飽きられただけじゃないのか?
そんな不安が頭をよぎる。
「実はこれを探していたんですの」
そう言って紫が差し出したのは、白く四角い形をした箱だった。
上の方は手で持てるように取っ手がついている。
「なによそれ?」
「外の世界のケーキが入ってますのよ」
「へ? ケーキなんてどうして…」
ケーキなら私も、アリスとかが作ってくれたのを食べてみたことがある。
だけど、外の世界のケーキなんて初めてだ。
というか、外の食べ物自体見るのは初めてだし、大抵は幻想郷入りする前に食べれなくなっているだろうし。
その辺をなんとかしてしまえるのは、さすが紫といったところか。
でも、なぜケーキなんだろう?
「この前霊夢が言っていたでしょう? 一度でいいから、外で一番美味しいケーキが食べてみたいって。それでいろいろ探してきたのですわ。
まぁ、一番美味しいかはわからないですけれど、外の世界でトップクラスの職人の方が作ったものらしいので、
少なくとも霊夢が今まで食べたお菓子よりは美味しい筈ですわよ?」
「…え? 私のために、一週間も探し回ってたの?」
紫の言葉に驚きが隠せない。
確かにそんなことを言った記憶はあるが、特に紫に頼んだ覚えもないし、自分でもうろ覚えな発言である。
それなのに紫は、そんな気まぐれなわがままのために、わざわざ外の世界まで探しに行ってくれたのか。
「えぇ、もちろんまるまる一週間それに費やしたわけではありませんけど、結構大変でしたのよ?
ですので、ちゃんと味わって食べてくれると嬉しいですわ」
紫のあまりの優しさに、さっきまでイライラしていた自分が恥ずかしくなる。
私のくだらないわがままのために、外の世界まで探し回ってくれていたというのに私は……。
「紫…その、ありがと。私のために、探してきてくれて」
「ふふっ、どういたしまして。さぁ食べましょうか、実は私もちょっと興味がありましたの」
紫はそう言うと、箱からケーキを取り出した。
そこには色んな種類のケーキが入っており、見た目からして今まで食べてきたお菓子とは全然違う。
すごく美味しそうだ。
でも、これを食べる前に言わなくちゃいけないことがある。
紫がここまでしてくれたのだ。
だったらせめて私は、きちんと自分の気持ちをきちんと伝えなくちゃ。
このまま紫に甘えて居ちゃいけない。
「あのね紫、その…こうやって私のために探してきてくれたのはすごく嬉しいわ。だけどね―――」
いきなりは無理だとしても、簡単なところから始めたいと思う。
だから今は、
「―――私は、紫が一緒に居てくれるだけで、十分嬉しいよ…」
このあたたかい気持ちを、ことばにこめて。
きっとそれが、確かな一歩になるから。
「霊夢…。そうですわね、あなたにも随分心配をかけてしまったみたいですし」
「そ、そんなわけっ…………あるわよ…。ホントはけっこう、心配したんだから…」
危うくいつものように突っぱねようとして、なんとか押し留まる。
こんなところで躓いていたんじゃ、自然に振舞うにはまだまだかかりそうだ。
「くすっ、今日の霊夢はなんだか可愛いですわね。でも今はとりあえずいただきましょう? このケーキ、とっても美味しそうですし」
「そうね、いただきます」
紫に促され、自分の分を口に運ぶ。
そのとき食べた一口は、今まで食べたどのお菓子よりも、美味しかった―――
<あとがき>
なんだか今回は、かなり優しいゆかりんです。
私の中でゆかりんは、霊夢をからかったりはしますけど、なんだかんだで霊夢には優しいイメージです。
そして、結局またほのぼのになっている罠(-_-;)
もし甘いゆかれいむを期待されてる方が居たらすみません…(^^;)
もしも、甘々なゆかれいむ希望の方がいたら、掲示板でも拍手コメでもいいので、
メッセージくれると、よろこんで書き上げます(^^)
………あれ? それってキリ番意味なくない?
……いいのです! それはそれ! というかそろそろ感想とか反応とかコメがなくて寂しいんですよ〜〜(泣)
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