降り注ぐ日差しの中で
 優しい太陽が降り注ぎ、辺りは柔らかな雰囲気に包まれていた。
 太陽はどこにいても照らしてくれるが、ここではより、そのことを感じることが出来る。
 おだやかにそよぐ風が草花を揺らし、私の頬をなでていく。
 そのまま草原に寝転がり、暖かな日差しを体いっぱい満喫する―――はずだったのだが…。
「…なんでこんな状況になってるのよ」
 今置かれている状況に、思わず不満を漏らす。
 別に周りの自然に文句があるわけではない。
 私―――霊夢が文句があるのは、思い切り寝転びたいのにそれを阻んでいる、目の前の人物に対してだ。
「どうして気がついたら、紫に抱きつかれてるわけ?」
 その私の行動を阻害している障害物―――紫は、気持ちよさそうに眠ってしまっている。
 そのくせ腕の力はしっかり入っていて、どうにも抜け出せない。
 そもそもなんで私と紫がこの場所に来ているかと言うと、いつものように私が神社の境内を掃除しているところに紫が来て、
『いい場所を見つけたのですけれど、そこまでデートいたしません?』と誘われたからだ。
 デート、なんてあからさまに言われたから最初は躊躇したけど、自分と紫の関係―――恋人同士ということを考えれば
戸惑うこともないと、紫の提案に頷いた。
 紫のことだから、一体どんなところに連れて行かれるのかと少し身構えていたのだが、着いてみればとってもいい場所で、
2人で草原に寝転がりしばらくのんびりしていたのだ。
 そしてあまりに日差しが暖かかったせいか、いつの間にか私は眠っていたようで、気がついたらこの状態になっていたというわけである。
「はぁ、まったく紫のやつ…」
 紫の顔が目の前にあり、思わずジッと見つめてしまう。
 前だったら恥ずかしくなってジタバタ暴れていただろうけど、最近はさすがに慣れてきた。
 まぁ紫の恋人を3ヶ月もやっていれば、慣れるのも当然だろう。
 なんせ紫は、何かあると抱きしめてくるんだから。
「紫、まだ起きないのかしら…」
 紫がいつ寝たのか知らないけど、早く起きてくれないと身動きが取れない。
 しかもこんな状況じゃ、さすがにもう一度寝るなんて出来そうにないし。
 ………暇だ…。
 私はあまりにも手持ち無沙汰になり、指で紫の頬をつついてみる。
「……うぅん………霊夢…」
 その口から私の名前が出たので起きたかと思ったが、どうやら寝言のようだ。
 ったく、どんな夢見てんのよ…。
 紫の寝言に突っ込みを入れつつ、私の視線はある1点に集まっていた。
 それは、さっきから寝言を呟いている、紫の唇。
 私が言うのもあれだけど、紫はかなり美人だと思う。
 容姿も整っているし、スタイルもいい。
 長く伸びる金髪は綺麗だし、常に余裕を感じさせる態度はまるで、どこかのお嬢様を連想させるようだ。
 そして今私の視線の先にある唇も、とっても形がいい。
 しっとりとぬれていて、さわるととても柔らかそうだ。
 しかもこれは、私の好きな相手―――紫の唇なのだ。
 そんなことを考えていると、ある1つの思いが頭をよぎる。
 ―――キス、したいな…。
「って、なに考えてるのよ私はっ!?」
 自分のかなり恥ずかしい考えに、全力で突っ込む。
 だいたいキスなんて紫のほうからしかされたことなくて、私からしたことなんて一度もないし。
 ―――………いや、その……何度か、実は…したこと、あるけど……。
 といっても、紫が起きてるときなんかにはできないから、私の所に紫が遊びに来て、縁側とかで寝てしまったときにこっそり…。
「…………紫、寝てる…わよね?」
 寝ているかどうか確かめるために、もう一度頬をつついてみる。
 ……うん、やっぱり寝てるみたい。
「…じゃあ、その…一回だけ」
 私は意を決し、一つ大きな深呼吸をする。
 そしてゆっくりと顔を近づけていき…。
 ―――軽く、唇を重ねた。
「わっ、し…しちゃった」
 かぁっと、頬が熱くなるのを感じ、思わず紫から顔を逸らしてしまう。
 いくら紫が寝ているといっても、恥ずかしくないわけがない。
 だけど、なんだか嬉しい気持ちもあったりする。
 だって、自分の大好きな人に、自分からキスをしたのだ。
 女の子なんだから、嬉しくないわけがない。
 それでも、紫が起きているときには、恥ずかしくてできるわけ―――
「ふふっ、ホントにしちゃったわね」
 ―――………えっ?
 その言葉に心臓が止まるかと思った。
 う、うそっ、そ…そんなまさかっ…!
 恐る恐る紫の顔に視線を戻すと、
「ゆ、紫っ!? まさか、起きてたのっ!?」
 明らかに、寝起きと言う顔ではない紫の顔があった。
 ま、まさかまさかっ! た、狸寝入りだったのっ!?
「えぇ、だってこうでもしないと霊夢ったら、自分からしてくれないでしょ?」
「と、当然でしょっ!? あんたが起きてるときにできるわけ―――」
 そこまで言って、紫の言葉にひっかかりを感じる。
 こうでもしないとしてくれないって……寝たふりすれば私がするって知ってるってことは―――まさかっ!
「あ、あんたもしかして、今まで私がしてたのも分かってたのっ!?」
「くすっ、全部かはわかりませんけど、少なくとも今日のほかに三度は、記憶にありますわ」
「なっ、なななっ!」
 それ、私がこれの前にした回数全部じゃないっ……!
 つまり、私が紫の寝ているときにこっそりしていたと思っていたのは、実は全部紫に知られていたわけで…。
 それを認識した瞬間、身体の温度が一気に上昇する。
 顔なんかは耳まで熱くなり、それこそ湯気が出るんじゃないかというくらいだ。
 ま、まままっまさか、紫に全部バレてたなんて……!
「でも嬉しいですわ、霊夢からしてもらえるなんて。あまりにも霊夢からはしてくれないので、
もしかしたら大して私のことを好きじゃないかと、勘違いしそうでしたもの」
「そ、そんなはずないでしょっ! 私だって紫のこと好きに決まって―――…あぅ」
 紫の言葉にとっさに反応して、言った瞬間自分の言葉の恥ずかしさに撃沈した。
 ただでさえバレて恥ずかしいのに、完全に墓穴だ。
「ふふっ、ホントに霊夢は可愛いですわね。それでね霊夢、お願いがあるのですけれど」
「な、なによ?」
 なにか嫌な予感がして、混乱しつつも身構える。
 すると紫の口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「もう一度、霊夢からしてくださいませんこと?」
「へ? なにを?」
「キスを、ですわ」
「あぁ、キスを……って、はぁあっ!?」
 あまりにも躊躇なく発せられた言葉に、一瞬理解が遅れ、分かった瞬間思わず声を上げる。
 も、もう一度キ、キスってっ!? 寝てるときでさえするのに勇気いるのに、今出来るわけがないでしょっ!?
 まったく、紫は何を言ってるのかっ。
 答えはもちろんノーに決まって―――
「霊夢が、私のことが好きだっていうちゃんとした証が欲しいのですわ。霊夢ったら、自分から抱きついたりすることも、
手をつないでくれることもないですし、滅多に好きとも言ってくれないんですもの」
 ―――紫の言葉に、チクっと心が痛む。
「それは私だって霊夢を信じてますけれど、私だってたまに、ほんの少しだけ不安になるんですのよ…?
 霊夢は本当に私のこと好きなんだろうか? もしかして、私に無理に合わせてくれているのではないかって…」
 いつもは明るい紫の笑顔が、今は少し寂しそうに見える。
 そうだ、私はいつも紫からスキンシップをしてくれるのに甘えて、自分からはなんの行動も起こしてこなかった。
 確かに自分からも言わなければ、行動を起こさなければと思ったことは何度もある。
 こちらからなにかしてあげなくちゃ、紫だって不安に思うんじゃないかというのも、想像できなくはなかったと思う。
 だけど、紫の優しさに、その笑顔に甘えてなにもしてこなかったのだ。
 ……このままじゃ、絶対にいけない。
「…い、いいわよ…。その、私もなにもしてこなかったのは、悪いと思うし…。し、しても…」
「ほ、本当ですの?」
 寂しそうだった紫の笑顔が、嬉しそうなそれに変わる。
 それだけ明るい表情をしながらも、ずっと待っていてくれたのかもしれない。
 ―――だけど、私はすぐに素直に離れなくて、
「そ、それに紫のことだから、ちゃんとするまで離してくれないんでしょっ?」
 なんて言ってしまう。
 こんなときでも意地を張ってしまうなんて、自分が恥ずかしくなってくる。
 それでも紫は優しく笑って、
「いいえ、霊夢が嫌だと言うなら無理強いはしませんわ。抱きしめられるのも嫌なら、すぐに離しますし」
「……嫌なはず、ないじゃない…」
 こんな風に抱きしめられて嫌なはずはない。
 ホントは起きたとき紫に抱きしめられていて、とっても嬉しかったんだから…。
「じゃあその……目を、閉じててくれる?」
 私の言葉に頷いて、紫はゆっくりと目を閉じた。
 心臓が激しく飛び跳ね、胸が張り裂けそう。
 あまりの恥ずかしさと緊張で、身体全体が最高潮に熱い。
 このままめまいで倒れてしまいそうだ。
 …だけど、これだけはちゃんとしなくちゃ。
 そう、私だって紫のことが、大好きだよって伝えるために。
 ひとつ、ふたつ、みっつと、大きくしんこきゅうをする。
 そうして私はこころをきめて…。
「じゃあ…その、いくね?」
 紫がうなづいたのをたしかめて、ゆっくりとちかづいていき、
 ―――ふるえるくちびるを、紫のそれにかさねた。
 ……で、出来た…。
 あまりの緊張に真っ白になっていた頭が、クリアになっていく。
 さっきのキスとは比べ物にならないくらい緊張したけど、だけどそれ以上に紫とちゃんとキスできたことが、すごく嬉しかった。
 本当に、勇気を出してよかったと思う。
 だって―――
「ありがとう霊夢。とっても嬉しいですわ」
 ―――こんなにも嬉しそうな、紫の笑顔が見れたんだから。
 だから私も勇気が出てくる。
 大好きなあなたの、大好きな微笑みがここにあるから―――
「ううん、私こそありがとう。私も、その……紫のこと、大好きだからねっ」



 優しい日差しが降り注ぐ草原で
 草花が楽しそうに踊る風の中で
 あなたと過ごす、気持ちのいい午後

 これからもっと、素直になるよ
 これからずっと、一緒だよ

 だってあなたが―――大好きだから




<あとがき>
 やっと甘くなった感じのゆかれいむです。
 昨日罪憑さんに、BBSにてもっとやれとのご要望がありましたので、さっそく書いてしまいましたw
 ちなみに、最後のほうで一部ほとんどひらがなにしてあるのは、誤字とかではなく
 霊夢が緊張しすぎて頭が真っ白になっているのを表現しようとしたのですが、
 もしかしてただ単に読みにくくなっただけだったり…。
 もっと精進せねばですね(^^;)






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