はじまりのあしおと

 朝の気持ちいい光が部屋の窓から差し込む。
 外からは小鳥達の声が響いてきて、まだ眠気の残る私の頭を覚醒させてくれた。
 カーテンを開けてお日様の日差しを浴びた後、鏡の前に立ちパジャマから制服へと着替える。
 まだ袖を通したことのない真新しい制服を着ると、なんだか気持ちまで新しく生まれ変われるような気さえしてきた。
 身だしなみを整え、傷一つ無いカバンを持って部屋から出る。
 階段を足取り軽く下りてキッチンまでやってきて、食パンをトースターにセットする。
 私はあんまり食べるほうではないので、朝はトースト2枚あれば十分。
 そしてトーストが焼けるのを待つ間に、コーヒーを入れる。
 甘党な私はブラックなんて飲めないので、ミルクはもちろん入れるし、砂糖の量はスプーンで3杯だ。
 きちんと混ざったのを確認すると、味のチェックのために一口飲んでみる。
「うん、いい感じかな」
 コーヒーの苦味がほとんど感じられないくらいで、きちんと甘い。
 ブラックコーヒーが好きな人はそんなのコーヒーじゃないって言うかもしれないけど、私としてはこの方が美味しいと思う。
 それにブラックなんてとても飲めたものじゃないし、なんであんなに苦いものを好き好んで飲むのかしら?
 と、そんなことを考えている間にトーストが焼きあがって、トースターから飛び出していた。
 取り出したトーストには、特製の苺ジャムを塗っていく。
 この前作っておいたジャムなんだけど、自分でも上手くできたと思う。
 例によって甘めな味付けだから、甘いのが苦手な人にはお勧めできないけれど。
 さて、これで準備OKかな。
 コーヒーの入ったカップとトーストの乗った皿をテーブルまで持って行き、椅子に座る。
「いただきます」
 顔の前で両手を合わせて食事の前の誰に言うでもない挨拶。
 もう3年目になる1人で摂る食事。
 最初は寂しかったけれど今ではすっかり慣れてしまった。
 両親は私が中学2年生になったときから、仕事で海外に住んでいる。
 もちろん一緒に行こうといわれたんだけど生まれたこの町から離れたくなくて、こうして1人ぐらしをしているんだ。
「さて、そろそろいかなくっちゃね」
 最後の一口を食べ終えてコーヒーを飲み干すと、手早く食器の片づけを終え、カバンを片手に家から出る。
 これから始まる、新しい生活へと思いを馳せながら―――



「今日からついに、高校生なのね…」
 学校への道をゆっくりと歩きながら、感慨深く呟く。
 そう、私は今日から高校生になるんだ。
 新しい学校で、素敵な友達を沢山作って、いろんなことを勉強して……
 想像しただけで、とってもドキドキしてくる。
「で、でも…私って人見知りしちゃうし、大人しいほうだし、友達……出来るのかしら?」
 思えば中学校でもそんなに友達が多いほうではなかったし、今でもよく遊んでいる友達なんて一人しか居ないし…。
「だ、だめよアリスっ! 入学式当日からそんなに弱気になっちゃっ!」
 ぐっとこぶしを握り締め、自分を奮い立たせる。
 そうよ、高校でこそ新しい友達を作るって誓ったんだから…!
 だいたいそんなくらい気持ちで過ごしてたら、友達になってくれるはずの人も自然と逃げて行っちゃうしね!
「…よし! 今度こそ頑張るのよ!」
 気持ちを入れなおして、スタスタと道を歩いていく。
 するとすぐに第一の目的地にたどり着いた。
 目的地と言っても学校ではなくて、学校へと行く前によることにしてあった場所だ。
 そこは唯一中学校から…というより、幼稚園に入る前からずっと友達で居てくれている、幼馴染であり親友でもある女の子が住んでいる神社だ。
 目の前には石段が聳え立っていて、ちょっと上るのは大変そうに見えるけど、長年昇っているうちに慣れてしまった。
「さて、霊夢はまだ境内のお掃除かしらね…」
 私の親友―――霊夢はこの神社の一人娘で、普段はこの神社で巫女の仕事をしているのだ。
 一人暮らしだけでも大変なのに、そのうえ神社の管理までしてしまえるなんて、霊夢はホントに凄いと思う。
「私も霊夢みたいに頑張らないとね…」
 とりあえずは、一人でもいいから友達を作るとこから始めてみよう。
 そう決意を新たにして、石段を登り始める。
 と―――
「あれ? あの人は…?」
 ふと上を見上げると、上から降りてくる人影が見えた。
 こんな朝早くからお参りだろうか?
 非常に落ち着いた雰囲気を持つ女性で、思わず見とれてしまいそうなほど綺麗な容姿をしている。
 もしかしたら私よりも年上かもと思ってしまいそうな空気を纏っている人だけど、そこで勘違いはしなかった。
 なぜならその人の着ている服が―――
「…私と同じ制服?」
 私がこれから入学する幻想学園の制服だったからだ。
 ということは、上級生とかなのかな?
 ついその人から視線を離せないでいると、あちらも私の視線に気づいたのかニコリと優しい笑みを返してくれた。
 そして私のほうに近づいてきて話しかけてくれる。
「もしかして幻想学園の新入生の方かしら?」
 うっすらと微笑を浮かべながら、彼女はそう聞いてきた。
 近くで見て改めて思うけど、この人の綺麗さは簡単に言葉で現しきれるようなものじゃない。
 その辺の一般的に使う“綺麗”とはまったく別格の、気品を持った美しさだ。
「あ…は、はいっ、そうですけど」
 こんなに綺麗な人とは話したことなんてなくて、思わず言葉を詰まらせそうになってしまう。
 でも彼女は、そんな私に怪訝な表情一つ見せずに優しい笑顔を浮かべていた。
「そうなんですの。では、あなたのこれからの学校生活が、素敵で有意義なものになることを願ってますわ」
 そう言って軽く会釈をすると、彼女はゆっくりと石段を降りて行った。
「……す、すごく綺麗な人だったなぁ…」
 なんというか、一般の人とは一線を画した風格と言うか、オーラがあった。
 おそらく一般の生徒ではなく、何かの役員についてたりする人だろう。
 うん、間違いない。というか、あんな人が一般生徒に居る学校なんて恐ろしすぎるし…。
「と、とりあえず霊夢に会いに行こう」
 気を取り直して再び石段を登り始める。
 そういえば神社からきたということは、霊夢もあの人に会ったのだろうか?
 だとしたら、霊夢はあの人とどんな話をしたのか気になる。
 霊夢は小さい頃から、神社の仕事のお手伝いをしていたから人の応対には慣れているはずだけど、そんな霊夢でも見とれちゃったりしたのかしら?
 それに平日の、しかも入学式当日の朝から神社へお参りに来るなんて、ちょっと不思議だ。
「まぁ人のお願いした内容なんて詮索するものじゃないし、早く霊夢の所に行こうっと」
 残りの石段を小走りに駆け上がり、私の身長の3倍くらいある鳥居をくぐると境内を見回してみる。
 この時間帯だと、霊夢は境内の掃除をしているはず……あっ!
「霊夢〜っ。おはよ〜うっ」
 お賽銭箱の近くに箒を持っている巫女服の霊夢を見つけ、手を振って挨拶してみる。
 …だけど、霊夢の反応がない。
「あれ? 気づいてないのかしら?」
 いつもなら霊夢からも手を振り替えして答えてくれるんだけど、今はその気配がない。
 何かに集中しているなら気づかないと言うのもわかるんだけど、なにかしている様子もないし…。
 とりあえず近くまで行けば気づいてくれるだろうし、すぐ傍まで行ってみよう。
 そう思って霊夢のすぐ傍まで駆け寄ってみるが、一向に気づく気配がない。
 なんだかぼうっとしているように見える。
「霊夢〜、霊夢ってば」
 すぐ隣で名前を読んでいるのに、さっぱり反応がない。
 なにもしないでこんな風にしていること自体霊夢にしては珍しいのに、果たして何かあったんだろうか?
「もうっ、霊夢ってばっ!」
「えっ!? ア、アリスっ!? い、いつのまにっ!?」
 痺れを切らして大声で呼ぶと、やっと驚いたようにこっちを見てくれた。
「さっきから居たわよっ。霊夢ったら呼んでるのに全然返事してくれないんだもん」
「ごめんごめん、ちょっと考え事してたから気づかなかったわ」
 うっかりしてたわと、霊夢は苦笑いを浮かべる。
 ちょっと珍しいけど、霊夢だってつい考え事に集中してしまうことだってあると思う。
 私も前に気になることがあって考え事をしていたら、霊夢に呼ばれたのを気づかなかったこともあったし。
 そういえば、気になることと言えば霊夢はあの女の人と話したのだろうか?
「ところで霊夢、さっき私石段のところで凄く綺麗な、幻想学園の制服を着た女の人と合ったんだけど、霊夢はお話とかした?」
「えっ!? そ、それは……うん、軽く挨拶ぐらいはしたわよ…?」
 普通に質問しただけなのに、霊夢の反応がおかしい。
 もしかして、さっき反応してくれなかったのは、そのことを考えていたから?
「ねぇ霊夢、ホントに挨拶しただけなの?」
「そ、そうよ? アリスこそどうしてそのことに拘るのよ」
「だって、さっきのぼうっとしてたことといい、今の反応といい、あの人と霊夢の間に何かあったとしか考えられないもの」
 私の指摘に、霊夢は言葉を詰まらせてしまう。
 ……ますます怪しい。
「も、もうっそんなのどうだっていいでしょっ! それより早くしないと遅くなっちゃうから私着替えてくるわねっ」
「あっ、ちょっと霊夢っ」
 一気に捲くし立てると、霊夢は走って神社の中へ入っていってしまった。
 …逃げられちゃった。
「う〜ん、まぁそこまでして詮索することもないわよね」
 霊夢もあんまりこの話には突っ込んで欲しくないみたいだし、ちょっと気になっただけだから無理に聞き出すこともないと思う。
 もし必要なことだったら、霊夢から話してくれるだろうし。
「そうだ。せっかくだし私もお参りしておこうかな」
 今日から始まる高校生活が素敵なものになるように。
 私はお金をお賽銭箱へと入れると、鈴を鳴らして手を合わせる。
「これから行く学校で、素敵な出会いがありますように…」
 一人だけでもいいから、胸を張ってこの人は友達だと言えるような人が出来ると嬉しい。
 学校を卒業したとしても、ずっと友達で居られるような人が。
「ホントに、素敵な学園生活になるといいな…」
 空を見上げながらこれからのことを思い描く。

 こうして私の、ちょっとの不安と大きな期待が詰まった物語が今、始まった―――




<あとがき>
 というわけで、ゆかれいむ&マリアリ学園モノの第一話です。
 前からブログで書きたいって叫んでた学園モノですが、
 やっと書き始められました^^
 とりあえずアリス視点で書いてみましたが、いかかでしょうか?
 霊夢視点とどっちにしようか迷ったんですが、今回はアリス視点にしました。
 今後他の3人の視点でも書くことになると思いますが、多分中心はアリス視点に
 なると思います。
 魔理沙はまだ出てきてませんが、多分次の話までには出てくるかな?
 全体通して何話ぐらいになるか分かりませんが、よろしかったら最後まで
 お付き合いお願いしますです^^









inserted by FC2 system