新しい出会い

 賑やかな話し声や笑い声が飛び交っている校庭を歩いていく。
 校庭の端には数本の桜の木が花を咲かせていて、いかにも春らしい。
 あれから入学式が無事終了し、今は下校している最中だ。
 明日にはクラス割りなどが発表され、新しい学校生活が始まることになる―――

「それにしても、今日の入学式の挨拶にはビックリしたね…」
 ついさっきあったことを思い出しながら、隣を歩いている霊夢に話しかける。
 それまでは入学してからの学校生活が心配でならなかったのだけど、あの挨拶があまりにインパクトがあり過ぎて、今ではそのことで頭が一杯だ。
「確かにね。生徒会長さんの挨拶も凄かったし、あいつもらしい挨拶だったかな」
「うん…って、そういえば私まだ、霊夢と霧雨さんがどんな関係なのか聞いてないよ?」
 式で彼女が出てきた辺りに、霊夢は霧雨さんのことを知っているようなことを言っていたはず。
 あんな凄い人と霊夢が知り合いだったなんて初耳だけど、いったいどういう関係なんだろうか?
 言い方からして、結構親しそうな感じがしたけど…。
「あぁ、それはね…―――っと、携帯なってるからちょっと待っててくれる?」
 丁度いいところで霊夢の携帯がなり、話が中断してしまう。
 来たのはメールみたいだけど、霊夢のご両親はいらっしゃらないし……相手は中学とかの友達かしら?
「うん、それもいいかもね……。ねぇアリス、このあと私の家まで遊びに来ない?」
「えっ? 別にそれは構わないけど……どうしたの突然?」
 メールを確認し終えた霊夢は、私にそんな提案をしてくる。
 今までも休みの日とかは霊夢の家によく遊びに行ったりはしたけど、それにしても突然な提案だと思う。
 もしかしてメールの内容が関係しているんだろうか?
「それは家に来てからのお楽しみよ。じゃあ行こうかしらね」
「うぅ…そんな言い方されたら気になるなぁ…。って待ってよ霊夢っ!」
 スタスタと歩いていってしまう霊夢に慌てて追いつく。
 なんだかさっきよりも歩くスピードが早くなった気がする。
 表情も少し嬉しそうな気がするし、もしかして会いたい人がお家で待っているんだろうか?



「はいアリス、おまんじゅうとかしかないけど良かったら食べて」
「うん、ありがとう」
 そう言いながら霊夢がお茶とおまんじゅうの乗ったお皿を私の前に置いてくれる。
 霊夢のお家は神社なだけあって純和風で、出てくる飲み物はお茶でお菓子も和菓子だ。
「私もアリスみたいにお菓子作りが上手かったら、こういうとき手作りのクッキーとか出せるんだろうけどなぁ」
「う、上手くなんかないよっ。 それに私のは自分で食べたくて練習しただけで、そんな大したものじゃ…」
「ううん、アリスの家に行ったときはいつも食べさせてもらってるけど、見た目もきれいだしとっても美味しいものっ。あれだけきちんと作れるんだから謙遜することないわよ」
「う、うん…」
 お菓子づくりのことを褒められて、思わず照れてしまう。
 自分があんまり褒められなれていないのもあるけど、なによりいつも頑張って練習しているお菓子づくりのことを褒められるのは嬉しかった。
 …それにしても、霊夢はこうやってストレートに自分の気持ちを言葉として伝えられて羨ましいなぁ…。
「それにしても遅いわねアイツ。新入生は一斉下校だったはずなのになにしてるのかしら?」
「ねぇ霊夢、今待ってる相手っていったい誰なの?」
 あれから霊夢と一緒にこの家に遊びに来る誰かを待っているんだけど、その相手が誰なのかを教えてもらってはいなかった。
「う〜ん、ホントは来るまで秘密にしておきたかったんだけど、あんまり遅いし仕方ないか。実はね―――」
「―――遊びにきたぜ霊夢っ!」
 霊夢が待ち人の名前を言おうとしたところで、突然障子が開き元気な声が飛び込んできた。
 びっくりして視線を向けると―――
「ったく、遅かったじゃない。どこで道草食ってたのよ」
「わりぃわりぃ、昇降口で他の新入生に捕まっちゃってさ。つい楽しくなっちゃって、気づいたらこの時間さ」
「えっ…えぇぇぇぇっ!? き、霧雨さんっ!?」
 ―――そこには新入生代表の挨拶をした霧雨さんが立っていた。
「予定してたのとは違うけど、とりあえず驚いてくれたみたいね。一応紹介しておくと、コイツが霧雨魔理沙。私の親戚で、まぁ悪友みたいなものかしらね」
「悪友ってなんだよそれ。普通に親友って言えよな」
「そ、そうだったんだ…」
 妙に霊夢が霧雨さんのことを親しそうに呼んでたのも、それで納得がいく。
 それにしても、霧雨さんと霊夢が親友だったなんて…。
「元々コイツもこっちに住んでたんだけど、親の都合で引っ越すことになってね。それからたまに長期休暇の時とか会ってたりはしたんだけど、コイツもこの町が気に入ってたらしく、高校進学を機に戻ってきたらしいわ」
 そういえば、霊夢は夏休みとかになると親戚の人の所に遊びに行くとかで、1〜2週間くらい留守にすることがあった。
 多分そのときに霧雨さんと会っていたのかも。
 それにしても霊夢、私と話しているときと大分態度が違うんだけど…。
 なんというか、遠慮がない…?
「魔理沙、この子が私の親友のアリスよ」
「霊夢からよく話は聞いてるぜ。霧雨魔理沙だ、よろしくな」
「あ、アリス・マーガトロイドです。よ、よろしくお願いします…」
 勢い良く差し出される右手をおずおずと握る。
 代表挨拶であんな凄いことした人が目の前にいるなんて、緊張するよ…。
「うん? なんで緊張してるんだ? 霊夢のダチなんだから別に気を使う必要ないんだぜ?」
「そりゃ、あんなとんでもない挨拶したやつが目の前にいたんじゃ緊張するでしょ」
 霊夢が緊張している私に代わって気持ちを代弁してくれる。
 元々人見知りしちゃうのに、その上憧れちゃうなと思った人が相手じゃ思うように身体が動かない。
「あ〜、あれは単にそのまま真面目な挨拶してもつまんないと思ったからやっただけなんだがなぁ…」
 霊夢の言葉にあっけらかんと答える霧雨さんに驚いてしまう。
 みんなの前で挨拶するだけでも緊張するというのに、あれほど聞いている人を引き込むような挨拶をして、その上それを自然と出来てしまうなんて…。
 やっぱり霧雨さんって凄い人なのかも…。
「アリス、魔理沙のことあんまり凄いとか思わないほうがいいわよ? コイツはただお調子者なだけなんだから」
「えっ!? あ、あの…」
 完全に霊夢に心を見透かされてしどろもどろになってしまう。
 た、確かに凄いとは思ってたけど、霊夢も本人の前ではっきり言うことないじゃない…っ。
「お調子者ってのは引っかかるが、霊夢の言うとおりだぜ。変に畏まられるのも困るし、霊夢に話を聞いててずっとアリスとは仲良くなりたいって思ってたんだ。だから霊夢に接するのと同じようにしてくれていいんだぜ?」
 ニッと明るい笑顔をみせ、緊張を解いてくれようとする霧雨さん。
 私は受け答えするので精一杯なのに、やっぱり凄いなぁ…。
 って、関心ばかりしてちゃだめだよねっ。わ、私もなにか返事しないと…!
「え、えっと…すぐには無理かもしれないけど、よ、よろしくお願いしますっ。き、霧雨さん」
「魔理沙でいいぜ」
「えっ?」
「友達になるんだから名字じゃなくて名前を呼ぼうぜ。私もアリスって呼ぶしさ」
 予想外な申し出に、思わずわたわたしてしまう。
 た、ただでさえ人見知りが激しいのに、あったばかりで名前を呼ぶなんて緊張しちゃう…。
 だけど、高校に入ったら頑張って友達を作るって決めたんだもの…こ、ここで頑張らなきゃだめよ私っ!
「ま、ま……魔理沙さん…。ありがとう…」
「う〜ん、出来ればさんとか丁寧語も抜きにしてほしいんだが、まぁそれはおいおいかな」
「むしろアリスに名前で呼ばれるなんて私以外にいないんだから、一日でここまでなれたのは凄いことなのよ?」
 苦笑する霧雨さん―――じゃ…なくて、ま…魔理沙さんに霊夢がフォローを入れてくれる。
 だけどそれだと、なんか私が友達少ないってバラされてるみたいで恥ずかしいよ…。
「こうしてアリスと仲良くなれたのも私のおかげなんだから感謝することね、魔理沙」
「多少は霊夢のおかげかもしれないが、お前に感謝なんかしたらなにを要求されるかわかったもんじゃないな」
「あら、わかってるじゃない。ま、今回はアリスも友達が出来て嬉しいみたいだから、特別にタダにしといてあげるわ」
「ったく、私にもアリスに対する態度くらいに優しくして欲しいもんだぜ」
 冗談を言い合いながら笑いあう霊夢と魔理沙さん。
 二人ともなんだか凄く楽しそう。
 …なんだか、羨ましいなぁ…。
 私も魔理沙さんと、霊夢と同じくらい仲良くなれたらいいのに…。
「じゃあこれから仲良くしてくれよ。アリスはこっちに来てから初めて出来た友達だしさ」
「初めて出来た……。うんっ、こちらこそよろしくね、魔理沙さんっ」
 そうだ、羨ましがってばかりもいられない。
 私にとっても魔理沙さんは、高校に入ってから出来た初めての友達なんだから。
 これから高校3年間―――ううん、その先もずっと一緒に過ごすかもしれない友達なんだから。
「さて、じゃあアリスとの出逢いを祝して乾杯といこうぜっ! そのためにジュースも買ってきたしさっ」
「あら、気が利くじゃない。それじゃあグラス取ってくるわね」
「えっ? 霊夢の家ってグラスあったのか?」
「はぁ? あんたは家をなんだと思ってるのよ。確かによく飲むのはお茶だけど、家にだってグラスくらいあるわよ」
「ふふっ、でも私も最初霊夢の家でグラス見たときはびっくりしたかも。全然イメージになかったんだもん」
「もう、アリスまで〜…」
 三人でふざけながら笑いあう。
 なんだかそれが凄く楽しい。
 霊夢と二人で遊ぶときも楽しかったけれど、三人だともっと楽しい。
 きっとこれからの高校生活は、この三人で過ごすことが多くなる気がする。
 そう考えると、なんだか心が弾んだ。
 まだ始まったばかりの私の高校生活だけど、とっても素敵な日々になりそう。
 そう感じることが出来た、春の日の午後だった―――







<あとがき>
 前回から2年くらい経ってしましたが東方学園モノの3話になります^^;
 ようやく魔理沙とアリスが出逢うことが出来ましたね。
 これからようやく物語が動いていくと思います。
 色々あってずっと止まってましたが、これからは2週間くらいに1話はあげたいですね。
 最低でも1ヶ月に1話は…;;







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