月夜に微笑む太陽

 楽しかったひと時が終わっての帰り道。
 景色は真っ赤な夕日から、徐々に暗い夜へと移り変わっていく。
 空には少しずつ星が輝き始め、月は徐々に明るく光りだす。
 本当なら少し寂しい気分になりそうだけど、私の胸は未だにドキドキしていた。
 なぜならそれは―――
「へぇ、アリスの家ってこっちなのか。もしかしたら案外私と近いのかもな」
 ―――魔理沙さんと一緒にいるからだ。
「そ、そうなんですね…。ち、近くてよかったです…」
 緊張で声が上ずりそうになるのをなんとか押さえ、返事を返す。
 あれから3人でいるのが楽しくて、つい遅くまで霊夢の家に長居してしまった。
 それで帰ろうとしたところで魔理沙さんが
『もう遅くなったし、危ないからアリスの家まで送ってくぜ』
 と言い出した。
 その気持ちは嬉しかったんだけど、会ったばかりで二人きりなんて緊張してしまう…。
 そう思って断ろうとしたんだけど、魔理沙さんは意外と心配性なのか送っていくと言って聞いてくれなくて…。
 結局霊夢にもせっかくだから送ってもらいなさいって言われて、こうして2人で帰ることになった。
「久しぶりに帰ってきたけど、やっぱり結構な場所が変わってるなぁ。まぁでも、私の大好きだった町全体の雰囲気は変わってなくて安心したけどさ」
「そ、そうですね…。か、変わらないですよね…」
 身体がカチカチになって、魔理沙さんの言葉もあまり頭に入ってこない。
 き、緊張するよぉ…。
「なぁアリス…。もしかして私が一緒に来たの迷惑だったか?」
「えっ?」
「いやさ、なんだかさっきから態度が余所余所しいし、ずっと俯いてばっかりだから迷惑だったのかなって…」
「そ、そんなことないですよ! た、ただ魔理沙さんとは今日会ったばかりだからちょっと緊張してるだけですから!」
 慌てて迷惑なんかじゃないと否定する。
 せっかく魔理沙さんが仲良くしてくれようとしているのに、緊張するなんて言ってばかりではダメだ。
 そうよアリス、高校では新しい友達をたくさん作るって誓ったんだもん。
 こんな風に尻込みしてないで、自分からも仲良くなれるように努力しなきゃ!
「そうならいいけど、もし嫌な時は遠慮せず言ってくれていいぜ? 霊夢にアリスは遠慮しがちなところがあるからあんまり強引にするなよって言われてるし」
「ホントに大丈夫ですって! た、確かに私は押しに弱いところありますけど……でも魔理沙さんが私と仲良くしようとしてくれることはとっても嬉しいですから」
 霊夢は私の性格をよく知ってるから気を使ってくれたのかもしれないけど、魔理沙さんに対して嫌だとか苦手とかいう気持ちは感じなかった。
 確かに魔理沙さんは時々押しが強いときがあるけれど、仲良くしてくれようという気持ちが凄く伝わってくるから逆に嬉しいくらいだ。
 自分は他人に対して一歩引いて接してしまうところがあるから、魔理沙さんくらい積極的な方がいいのかもしれない。
「ならよかったぜ。会った初日から嫌われたんじゃ悲しいしな」
「魔理沙さんいい人ですからそれはないですよ。なにより霊夢の親友なら悪い人なわけないですし」
 人見知りする私がここまで会ったばかりの魔理沙さんと話せるのは、彼女が霊夢の親友だからというところが大きい。
 霊夢は私のただ一人の親友だし、人を見る目もある女の子だ。
 彼女が親友と呼び仲良く接している魔理沙さんが、悪い人だというのはありえないと思う。
「むぅ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだが、これは本格的に霊夢に感謝しなくちゃいけなくなりそうで怖いな」
「ふふっ、そうですね。霊夢のことだからきっちりお返しを要求してくるでしょうから覚悟しておいた方がいいですよ?」
「ははっ、こりゃまいったな」
 二人で顔を見合わせ笑いあう。
 今日会ったばかりだというのに、まるでずっと前から友達だったみたい。
 さっきまでの緊張が嘘みたいに、顔が自然と綻んでいた。
「でも霊夢のおかげでアリスと友達になれたんだ。少しくらいのお返しだったら喜んでするけどな」
「そんな、私なんかと友達になれたくらいで大げさですよ」
 私なんてその辺にいるごく平凡な女子高生に過ぎないんだから、それはちょっと言いすぎだと思う。
 だけど魔理沙さんは、そんな私の言葉に首を横に振る。
「そんなことないさ。昼間にも言ったけど、アリスのことは結構前から霊夢に聞いてたんだ。霊夢は凄くいい子だって自分のことのように自慢するし、なによりアリスのことを話すときの霊夢の顔がとっても嬉しそうでさ。だから今回会うのをすっごく楽しみにしてたんだぜ?」
「れ、霊夢ったらいつも私のこと買い被るんだから…」
 いつも思うんだけど、霊夢は私のことを良く考え過ぎていると思う。
 それは褒めてもらえるのが嬉しくないわけではないけど、私は別に凄いところなんてないのに…。
 それとも身内贔屓ってやつなのかな?
「買い被りなんかじゃない。アリスは霊夢の言ってた通り…いや、言ってた以上の女の子だったぜ」
「えっ…?」
 魔理沙さんの言葉に耳を疑う。
 ずっと一緒に居る霊夢ならともかく、今日会ったばかりの魔理沙さんにそんなことを言われるなんて…。
「アリスは謙虚というか控えめなところがあるから自分で気づかないかもしれないけど、素敵なところをたくさん持ってるぜ。出会ったばかりの私でも分かるくらいなんだから間違いないさ」
「そ、そんなっ…わ、私に良い所なんて全然ないですよっ」
 魔理沙さんにまで褒められてしまって、顔が熱くなる。
 霊夢以外の人からあんまり褒められたことがないから、余計に恥ずかしい。
 お世辞なのかとも思ったけれど魔理沙さんはそんなこというタイプの人ではないし、その表情も嘘を言っているようには見えなくて、さらに困惑してしまう。
「むしろ私からしたら良いところしか見えないぜ? 悪いところといったら、その引っ込み思案だったり自分に自信がなさ過ぎるところぐらいだ」
「うぅ…私はそんな……」
 疑うわけじゃないけれど、自分がそんな素敵なとこばかりだなんて信じられなかった。
 そんな私に、優しく諭すように魔理沙さんは話しかけてくれる。
「アリスはさ、もっと自分に自信持って良いんだよ。すぐに変えろって言うのは難しいだろうけどさ、アリスくらいいいやつだったらもうちょっと明るく笑ってれば友達なんてすぐ出来るぜ。この魔理沙さんが保障してやるよ」
「魔理沙さん…」
 ニカっと歯を見せて、明るく笑ってみせる魔理沙さん。
 その言葉はなんだか凄く心に染み渡り、深く胸に響いた。
 彼女の笑顔は夜だというのにまるで太陽のように輝いて、とっても眩しかった。
「そうですね…。私自分に自信がないばっかりに、霊夢と居るとき以外は笑顔でいることが少なかったかもしれません…。すぐには無理かもしれないですけど、これから気をつけるようにします」
 魔理沙さんの言うとおり、暗い表情なんかで居たら誰も仲良くなりたいなんて思わない。
 これから友達をたくさん作りたいと思うなら、もっと笑顔で居るようにしなきゃ。
 なにより魔理沙さんが新入生挨拶で言っていた言葉―――
「――― 一度しかない高校生活、一生に一度の青春なんだから思いっきり楽しまなきゃですよねっ」
「おっ、ちゃんと覚えててくれたのか。アリスにまで覚えてもらえてたなら、勇気を振り絞って言った甲斐があるぜっ」
「えっ? ホントは緊張とかしてたんですか?」
「いや、ノリと勢いだけで喋っただけだぜっ」
「もうっ、やっぱりそうなんじゃないですかっ」
 魔理沙さんの冗談に思わず笑ってしまう。
 魔理沙さんと話していると本当に楽しい。
 とっても明るくて面白いし、それに人のことを気遣える優しさも持っている。
 やっぱり思ったとおり、魔理沙さんはとっても素敵な人だった。
 こんな素敵な人と友達になれたんだから、私も霊夢に感謝しなくちゃね。
「あっ、私の家ここなんです」
 話に夢中になっているうちに、気づけば家の前に着いていた。
 魔理沙さんと話していると、本当に時間を忘れてしまいそうになる。
「おっ、私の家と歩いて10分かからないくらいだな。じゃあせっかくだから、明日からは一緒に登校しようぜ」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、どうせアリスも霊夢のうち寄るんだろうし。それに私たち、もう友達だろ?」
「あっ…はいっ」
 『友達』その2文字に心が弾む。
 その言い方が凄く自然で、魔理沙さんの中で私がちゃんと友達として認められたみたいで嬉しかった。
「じゃあまた明日なっ。初日早々寝坊しないように気をつけろよっ」
「はい、また明日っ」
 寝顔で右手を振る魔理沙さんに応える。
 彼女のおかげで明日から楽しく過ごせそうだ。
 『明るく笑ってれば友達なんてすぐ出来る』その言葉を大切にして、これからの学園生活を頑張っていこうと思う。
 だから―――
「魔理沙さんっ」
「ん? どうしたんだアリス?」
 ―――それを教えてくれた魔理沙さんに、私の出来る最高の笑顔で。
「これからずっと、仲良くしてくださいねっ!」
 精一杯の、けれど自然な笑顔で手を振り返す。
 今まで霊夢や家族の前以外では、自然な笑顔なんてほとんど浮かべたことがなかったから上手くいってるかわからないけれど、それでもこれが私の出来る精一杯。
「っ!?」
 笑顔で手を振り替えした瞬間、魔理沙さんの動きが止まる。
 その顔は不意打ちをされて驚いたような顔をしていた。
 いったいどうしたんだろうか?
「魔理沙さん? もしかして私の顔変でしたか…?」
「い、いやっ! そ、そんなことないんだっ! わ、私用事思い出したから帰るぜっ! また明日なアリスっ!」
 慌てたように捲くし立てて走っていってしまう魔理沙さん。
 う〜ん…ホントにどうしたんだろうか?
「まぁ、用事を思い出したって言ってたし、それで驚いちゃっただけかも」
 あれだけ慌てて帰るくらいだから、きっと大事な用だったに違いない。
 それを忘れてたのを思い出して、あんなびっくりしたような顔になっちゃったんだと思う。
 そうだとしたら、明日時間をとらせちゃったこと謝っておかなきゃ…。
「でも、ホントに魔理沙さん良い人だったなぁ」
 霊夢の親友だから悪い人のはずはないんだけれど、ここまで素敵な人だとは思わなかった。
 代表挨拶ではとってもカッコよかったし、話してみれば面白くて優しいし、ホントに非の打ち所のない人だ。
 そんな人と友達になれたなんて、なんだか信じられない。
 今日は、本当にいい日だった。
 明日もこんな風に、楽しく過ごせるように頑張ろう。
 そのためにも、もっと明るく笑顔でいかなきゃね―――







<あとがき>
 というわけで、学園モノ4話目になります。
 なんとか2週間に1本あげるという目標はギリギリ守れた感じですね。
 …ホントは15分くらいオーバーしてますけどそこは多めに見てください^^;
 今回は魔理沙とアリスの間に早くも変化が起き始めたようですね。
 今後どのように展開していくのか期待しててください^^
 次回は5話目にしてようやく学園生活初日になります^^;
 今年以内に終わる気しないな〜;;






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